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十勝農業王国の確立  
 十勝農業は、1883(明治16)年、晩成社の移住によって本格化した開拓の初めから、基幹産業として成長してきました。それは、府県とはまったく異なる寒冷な気候風土の中で、冷害や水害、病虫害、さらに外国の安い農産物などとも闘う苦難の歴史でした。時代に即した新しい技術を導入し、欧米の文化も取り入れながら発達してきた十勝は、いまでは我が国の代表的な畑作・酪農地帯となり、高い自給率を誇っています。
  十勝農業のあらまし / 農作業と農機具の変遷 / おもな農作物 / これからの十勝農業
 十勝農業のあらまし
  馬耕(明治40年ころ、芽室町美蔓)

豆選り作業
■歴 史
 当初、移民たちは水田稲作など故郷と同じような農業をしようと試みました。しかし、本州とはあまりにもかけ離れた寒冷な気候条件や、技術の未熟さもあって、失敗や苦難の連続でした。
 開拓地では、現金収入を得る作物として大豆や小豆の栽培に力を入れました。小豆は戦後も品薄で価格が高騰すると「赤いダイヤ」ともてはやされました。
 しかし、豆類に偏った農業は冷害の被害を受けやすいことから、同じ畑で毎年違う作物を栽培する「輪作」が1931(昭和6)年ころから推奨されました。とくに昭和36年ころから広まった小麦、豆類、馬鈴薯、ビートの4輪作体系の確立は、十勝農業を大きく発展させました。
 また、牧草を導入した草地が造成され、酪農や畜産が発達しました。肉牛生産は晩成社が始めましたが、戦時中は軍馬の生産に押されて衰退し、戦後に再び拡大しました。
気 候
 十勝平野の内陸部は、夏は比較的暑く、冬は積雪の少ない割に気温が低くなる内陸性気候です。これに対して沿岸部は濃霧が発生しやすく、夏でも気温の低い、日照時間の少ない海洋性気候を示します。
 この違いは農業の形態にも影響を与え、内陸部ではおもに畑作、沿岸部では酪農が営まれています。また、畑作、酪農それぞれにおいても、気候や地形の異なる内陸部と沿岸部では農業形態などに少しずつ違いがあります。

特 徴
 現在の十勝農業の特徴は、輪作による畑作主体の農業と酪農で、そしてそのどちらにも見られるのが、大規模で機械化の進んだ農業形態です。
 十勝の耕地面積は約25万ha、1戸当たりの耕地面積は38haですが、これは全道平均の約2倍、全国平均の約24倍もあります。同様に酪農も大規模化が進んでおり、1戸当たりの乳牛の飼養頭数120頭前後、生乳生産量も全道の4分の1と、最大規模を誇っています。
 
 農作業と農機具の変遷 
亜麻の収穫

ロープ伝導式豆播機

どんころ

ニオ
 農作業の体系は、畑の整地、播種、除草、収穫、調整といった一連の流れが基本で、これは動力の近代化が進んだ今日も共通に見られます。しかし、機械化の進展により、これら農作業に用いる農機具には、さまざまな変化が見られます。

人力から機械化へ
 開拓初期の十勝農業は、鍬
(くわ)や鎌などの小農具を使った人力農法でした。1897(明治30)年ころになると、馬を使った畜力洋式農法が普及します。このため、動力としての馬の改良が積極的に取り組まれました。また、地元の鍛冶屋が輸入機を参考にして、自前のプラウ(土を起こす道具)を製作するなど、農機具製造も始まりました。
 昭和に入ると、農業用発動機が普及し、馬で耕し、手で刈り取り、発動機を使って脱穀する畜耕・手刈り・動力脱穀農法となりました。
 そして、1955(昭和30)年ころからトラクターが普及しはじめ、機械の大型化が進んでいきました。

農機具の改良
 一般に十勝農業を代表する作物は、豆類、ビート、馬鈴薯と言われ、これに関連する多くの農業機械が開発・改良されてきました。とくに豆類は、十勝の気候・風土に適した作物として栽培され、永年、農業基盤を支え続けています。
 直線状に効率的に種を播くための播種機の原型は輸入機とみられますが、やがて十勝独特の形態で発達します。昭和初期には「ロープ伝導式手押豆播機」が考案され、帯広市の文化財に指定されています。
 収穫した豆の殻をとる脱穀に用いられたのが「どんころ」です。大きな車で豆の上を渡ると、殻がはぜて脱穀できます。
 唐箕は、脱穀した麦などの殻を風で飛ばし、殻と実を選別するための道具です。上部のろうと状の口から殻粒を流し込み、横のハンドルを回転して風を起こします。木製や金属製、ハンドルや取り出し口の向きなど、さまざまな形態のものがありますが、大別すると東日本型と西日本型に分かれます。
 ニオは、収穫した豆を乾燥するため、さやの付いた茎ごと束ねたものです。ニオ積みとも言い、豆産地の代表的な景観でしたが、近年は収穫から脱穀まで一貫して機械で実施することが多くなりました。
 
 おもな農作物  
麦 類
小麦
 小麦はまきつけ時期によって「秋まき小麦」と「春まき小麦」があります。また、用途によっても、うどん等に用いる「軟質小麦」と、パン等に用いる「硬質小麦」などに大別されます。国産小麦は、従来ほとんどがうどん用でしたが、近年ではパン作りに適した硬質小麦の有力品種が開発され、国産小麦の用途も拡大しつつあります。

大麦
  大麦は、穂の形態から六条大麦と二条大麦に分けられます。「麦めし」や「麦茶」の原料となる六条大麦の栽培は、現在ではほとんどありません。二条大麦は、ビール醸造用原料としてメーカーとの契約栽培が中心になっていますが、オホーツク地方が主産地で、十勝ではほとんど生産されていません。

燕麦 「オーツ」とも呼ばれる燕麦(エンバク)は、かつて軍馬や農耕馬の飼料として用いられました。現在は吸肥力の強さから、地力を均平にするために栽培して緑肥としたり、肉牛の飼料用としてわずかに栽培されています。
 
小麦

燕麦
豆 類
 豆類は、十勝農業の代名詞とも言える作物で、大豆、小豆(アズキ)、菜豆(インゲンマメ)、エンドウがおもに作られています。また、芽室町にある十勝農業試験場には、豆専門の研究室があり、品種改良のほかに栽培方法や病気対策など、新しい技術の開発に努めています。

小豆
 あんこや羊羹などの原料になります。製菓用素材としても重要な豆ですが、お手玉や枕の詰め物などにも用いられています。用途別に大納言、中納言、白小豆、黒小豆などがあります。

菜豆 インゲンマメのことを菜豆
(さいとう)と言います。生食用のさやいんげんのほか、金時豆、福豆、虎豆、うずら豆など、色も形もさまざまな品種が用途別に分かれています。花豆もベニバナインゲンという菜豆の一種です。

大豆 豆腐や醤油、味噌などの原料になるほか、納豆や枝豆としても利用されます。油を抽出したり、化学物質を化粧品に用いるなど、食用以外にも多様な利用方法が開発されています。
 
 
豆類の展示
 
小豆

菜豆
ビート
 てん菜や砂糖ダイコンとも呼ばれる、砂糖の原料です。1871(明治4)年に開拓使の農場で試験栽培され、胆振地方を中心に栽培されましたが、輪作技術が普及しなかったために畑を荒廃させ、定着しませんでした。
 やがて第一次世界大戦がはじまると、海外から砂糖が入らなくなり、ビートの増産が国策として進められるようになりました。十勝では、ドイツ人技師グラバルが招かれ、帯広で輪作の見本経営が行われて、農家に技術が普及しました。
 また、1963(昭和38)年ころより、種子の直播き栽培から苗のペーパーポット移植への移行が推奨されたことも、作付面積の拡大を強く後押ししました。
 1920(大正9)年の帯広を皮切りに、十勝には芽室、清水、本別に製糖工場ができ、ビートの生産量も北海道一となっています。
 

ビート

ペーパーポット 
馬鈴薯
 作物名では「馬鈴薯」ですが、植物名は「ジャガイモ」と言います。作物名として定着しているため、農業の世界では北海道を中心に今も「馬鈴薯」の名が使用されています。
 北海道では、江戸時代の1706(宝永3)年に、道南の瀬棚で栽培されたのが最初です。寒冷な気候に適し、火山灰性の土壌でも生産性が高いことから、十勝では1883(明治16)年から作付され、病気の対策が進んだ1955(昭和30)前後から生産量が大きく増加しました。
 明治以来の「男爵薯」や「メークイン」が今も代表的な品種として愛されている一方、さまざまな用途別に、それぞれ適正品種が開発されています。おもな用途は、一般家庭の生食用、ポテトチップスなどの加工用、家畜の餌用、でんぷん原料用です。十勝では生食用、加工用を中心に作付されています。また「種苗管理センター十勝農場」が置かれ、種イモの供給拠点にもなっています。
 
 
馬鈴薯の展示パネル
トウモロコシ
 十勝では1883(明治16)年から作付記録があります。国産トウモロコシは、乳酸菌発酵させた「サイレージ」という家畜の餌にするための「デントコーン(馬歯種)」がほとんどです。生食用は、当初はフリントコーン(硬粒種)でしたが、1960(昭和35)年以降は「スイートコーン(甘味種)」が広がりました。
 十勝ではサイレージ用が60万トン前後、食用は6万トン前後が生産されています。食用は一部が生食用で、大半は缶詰や冷凍食品などの加工に出荷されています。
 また、再生可能なエネルギー源であるバイオエタノール原料としても注目されています。
 
酪農・畜産
酪農 酪農は、十勝を含む道東の基幹的な産業です。作物の栽培が困難な寒冷地でも、家畜を通して乳や肉を得ることのできる、道東の厳しい気候風土に適した形の農業です。
 酪農は、大きく分けて、トウモロコシサイレージを中心とする畑地形酪農と、牧草主体の草地形酪農に大別されます。十勝では内陸部で畑地形酪農が多く、沿岸部や山麓の傾斜地では草地形酪農が主体です。
 また、生乳を加工してバターやチーズを製造する乳業メーカーの工場や、専門の物流設備など、生乳生産から乳製品の製造・発送まで、一貫した出荷体制が整備されています。

畜産 十勝では、山麓部や丘陵地帯などの緩傾斜地を利用した肉牛の肥育が盛んで、各市町村でブランドを確立しています。近年は、黒毛和牛や褐毛和種などの肉牛に、ホルスタインなどの乳牛を交配させたF1(エフワン:交雑種)牛の肥育が盛んに取り組まれています。
 

酪農・畜産のパネル
コラム 近年の特産物

ソバ 従来は寒冷地向けの雑穀でしたが、水稲からの転作作物として、近年は作付が拡大しています。十勝地方でも、従来より新得町、鹿追町を中心としてブランド化が進んでいます。

ナガイモ ナガイモのような直根形根菜類は、柔らかく透水性も高い砂質土壌での栽培が適しており、火山灰地である十勝地方は栽培の好適地です。
 
 
ナガイモ畑
 これからの十勝農業
アメダス
(地域気象観測システム)
土地改良と情報化 
 十勝の土壌は、ほとんどが生産性の低い火山灰性土壌のため、開拓以来さまざまな技術により土壌改良を行い、生産性を高めてきました。
 また、農業には不向きな湿地を、山から土を運んできて埋め立てる客土や、排水路の設置、氾濫を防ぐための河川の直線化など、土地改良事業も進められてきました。 
 1970年代以降、農業の大規模・機械化に対応するため、農地の区画化や農道の整備が進められています。
 帯広には、全国で2ヵ所だけとなった気象庁の測候所が残っており、農業気象観測と情報発信に重要な役割を果たしています。

新しい農業技術の開発 
 近年、夏の高温と長雨による障害が、麦類や豆類で顕著に見られるようになりました。こうした新しい課題に対応する栽培技術が検討されています。
 また、酪農家から毎日大量に排出される家畜のふん尿の処理が、環境汚染と結びついて問題化している一方、牛ふんを発酵させて熱を得るバイオガスプラントなど、新しい資源として活かす試みも進んでいます。ビートの残渣からアルコールを抽出するバイオエタノールも、新しい産業として注目されています。
 従来の品種のまま、欠点のみを短期間で改善するDNAマーカー選抜は、効率的で現場に密着した新しい品種改良技術です。こうした技術研究を行うため、十勝には農業試験場や家畜改良センターなど、各種研究機関が置かれており、農業および食糧に関する研究拠点としての役割も果たしています。
コラム ノライモ対策の雪割り

 十勝でも冬に積雪が多く見られるようになってきました。雪の下は土壌が凍らず、雑草が越冬しやすくなります。そのため、近年問題になっているのが、越冬した馬鈴薯が翌年になって雑草化する「ノライモ」と呼ばれる現象です。
 そこで、ノライモの発生を防ぐために、真冬に積雪をトラクターで除去する「雪割り」が広く見られるようになってきました。
雪割り