活動宮

双児宮:双子座(gemini)

二区分:男性宮
三要素:柔軟宮
四素子:風の宮
支配星:水星
タロット照応:恋人達


双子座の神話

 大神【ゼウス】が、スパルタの王妃【レダ】に恋をする。その際、大神【ゼウス】は、その身を白鳥に変化させ【レダ】と交わり、【レダ】は二つの卵を産み落とす。こうして誕生したのが、【カストル】と【ポルックス(ポリュデウケス)】の双子である。
 良く似た双子でありながら、【カストル】は【レダ】の血を濃く引き継ぎ【人間】として、【ポルックス】は大神【ゼウス】の血を濃く引き継ぎ【神】としての性質を持つ。その為、【カストル】は、いずれ死ぬ運命にあり、【ポルックス】は永遠に生きる事が約束されていた。この双子は、とても仲睦まじく、それぞれ乗馬と拳闘(ボクシング)の名手となる。
 黄金の毛を持つ羊を探索する冒険(アルゴー船の旅)に参加し、数多くの伝説的武勇を轟かせる。
 例えば、アルゴー船の航海中、大嵐に見舞われた際、冒険に参加していた太陽神【アポロン】の子【オルフェウス】が竪琴を奏でると、海神【ポセイドン】はアルゴー船に目を向け、双子の仲睦まじさに感銘を受け、嵐を鎮めたと言われている。後世、【カストル】と【ポルックス】の双子は、船旅の守り神として崇敬を集めるようになる。
また、アルゴー船の旅の最中。ビテュニアの国に入ると、国王【アミュコス】に戦いを挑まれ、【ポルックス】がこれを打ち負かした。
 二人の最後の旅は、アルカディアに牛を捕まえに行った際の事。従兄弟の【イーダス】と、千里眼を持つ【リュンケウス】の二人が同行するが、この二人は野心を抱き、計略を持って、双子が獲得した牛を横取りしてしまう。怒った双子は、牛を取り返す為に先回りをするが、運悪く見付かってしまった【カストル】は射殺されてしまう。これを見て怒った大神【ゼウス】は、雷電を以って【イーダス】を打ち殺す。
 【カストル】の死を前にした【ポルックス】は、【カストル】と共に死ぬ事を願ったが、不死の体である為、その願いは叶わなかった。その為、大神【ゼウス】に、自分の不死を【カストル】と分かち合う事が出来るよう祈る。大神【ゼウス】は、その願いを聞き届け、兄弟が一日毎に、オリュンポスと冥界で暮らせるよう計らい、二人の友愛を記念し、双子座を天上に刻み付けたとされる。

別説
 上記説では、二人とも大神【ゼウス】の子とされているが、一説では、【ポルックス】は大神【ゼウス】の子で、【カストル】は、【レダ】の夫である【テュンダーレホオス】の子とされている。

解説

 双児宮:双子座が持つ基本的な性質は、ある種の【二面性】と、その二つの間を取り持つ【情報伝達技術】及び、他者の理解を促す【知識】等。二つに別たれる事によって生じる【二元性】と、それに付随するコミュニケーションを暗示している。
 双子座の神話に見るように、乗り越え難い【死】の壁が二者の間にあり、それ打破する為には、親密な交流と、相補関係が必要である事を物語る。また、良く似たモノ同士であっても、決定的に異なる部分がある事も教える。その差異に気付かない場合、偏った一方の道の中で、もう片方が失われる危険性も説く。
 性質として、二つに引き裂かれた部分を補う為、口数や行動が素早く、多くなる傾向にある。また、二つの相反する感情を、同時に抱くと言う器用な真似をする場合もある。コミュニケーションを最重要とする星宮である為、文筆・外交等の才能があり、度が過ぎると【口八丁】になってしまう傾向がある。概して多才であるが、一つの事に集中する事が出来ず、器用貧乏となる傾向がある。少々軽率で、恋愛よりも友情を優先する傾向もある。
 支配星【水星】の影響も色濃く、語学関係・数学・商売等・異文化交流に強い。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【積極的】【行動的】【融通性】【柔軟】【奇抜】【社交的】【知的】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【水星】は、双児宮:双子座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、双児宮:双子座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【水生】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 春分から約二ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【双児宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【牡羊座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、春分の夜明けの地平線を基準に、60度〜90度に渡っての範囲が、【双児宮:双子座】の場となる。

恋人達タロット【恋人達】との照応について。
 【恋人達】のカードは、伝統的に【男女の愛】と【道の選択】等を主要テーマとする。一見、伝統的なテーマの中に、双児宮:双子座との明確な繋がりは見られない。但し、【パートナーシップ】や、一個人の中に存在する【二つの意識(本能と理性:男性性と女性性)】と言ったテーマについては、ある種の関連性を持ち、その部分を中心に、比較分析を行うと面白い。似ているようで、全く異なるモノが、お互いに補い合い、進む事によって、道に待ち構える大きな困難を克服して行く。そう考えた場合、【恋人達】のカードは、【恋愛】における【ゴール】と見るよりも、その先に続く道の歩み方を説いていると考える事も出来るだろう。最終的に、【ポルックス】が【カストル】と不死を分かち合い、一日毎に、天界(オリュンポス)と冥界行き来するように、二人の人間が、互いの幸福と不幸を分かち合い、共に手を取り進むのが望ましいと言う事だろうか。


処女宮:乙女座(Virgo)

二区分:女性宮
三要素:柔軟宮
四素子:地の宮
支配星:水星
タロット照応:隠者


乙女座の神話

 この星座の由来は、諸説多く、様々な女神が関連すると言われている。
 ギリシア神話において、最もメジャーなのが、地母神【デメーテル】、或いはその娘【ペルセフォネー】と言う説。
 地母神【デメーテル】の娘【ペルセフォネー】は、大変美しい女神であり、多くの男神達の憧れの的であった。
 有る時【ペルセフォネー】は、従者のニンフ達と、野原で花摘みをして居たが、ふとした事で、ニンフ達と逸れてしまう。その時を見計らい、冥界の王【ハデス】が地上に躍り出て、無理やり【ペルセフォネー】を攫ってしまった。
 【ペルセフォネー】が居ない事に気付いた、地母神【デメーテル】は、可愛い娘を探す為、地上の至る所を彷徨い歩く。有る時、【エレウシス】と言う土地に来た【デメーテル】は、その土地の者達に、秘儀を授ける。これが有名な【エレウシスの密儀】となる。
 【ペルセフォネ】を探す為、長らく彷徨って居た【デメーテル】は、有る時、太陽神【ヘリオス:アポロン】に、事の真相を告げられる。
 【ペルセフォネー】の失踪は、冥界の王【ハデス】によって攫われた事が原因であり、更には、【ハデス】の兄に当たる大神【ゼウス】も一枚噛んでいると知る。
 それを知った地母神【デメーテル】は、とても怒り、大地を繁栄させると言う職務を放棄して、岩屋に篭ってしまう。その為、大地の植物達は枯死し、人間も動物も、次々の死んで行った。
 困った大神【ゼウス】は、冥界の王【ハデス】に【ペルセフォネー】を返すように言うが、既に【ペルセフォネー】は、冥界のザクロの種を四つ食べてしまっており、冥界の住人になって居た。
 そこで大神【ゼウス】は、一年の内4ヶ月を冥界で過ごし、残り8ヶ月を地上で過ごすように定める。
 【ペルセフォネー】が地上で過ごす8ヶ月間は、地母神【デメーテル】と共にある為、植物が育ち、冥界で過ごす4ヶ月間は、【デメーテル】が岩屋に隠れてしまう為、春夏秋冬の四季が出来たとされている。

別説
 上記の説に次いでメジャーな説が、正義と天文の女神【アストレイア】とする説。
 古代、神々と人々は仲良く暮らしていたが、人々が争いを繰り返し、徐々に堕落して行った為、一人一人と神々が天上へと帰ってしまう。しかし、女神【アストレイア】は、最後まで人間を見捨てず、正義を教えていた。しかし、人間の争いは止まず、堕落も加速するばかりで、とうとう最後には女神【アストレイア】も天上へと帰ってしまう。この時、女神【アストレイア】が乙女座となったと言われている。

解説

 処女宮:乙女座が持つ基本的な性質は、どちらかと言えば、正義の女神【アストレイア】の影響が色濃く、【秩序】と【礼儀】を重んじる【倫理性】が前面に現れる。それに重なるようにして、【知性】と【判断力】。【繊細】で【緻密】な神経と行動原理。また、特徴的な【批判精神】を兼ね備える。

 処女宮:乙女座に関わる神話が余りにも多い為、その神話群から、この星宮が持つ性質の示す、特定の根拠を探すのは難しい。
 事実、上記に解説した【デメーテル】【ペルセフォネー】【アストレイア】と言う説以外にも、アテナイの王【イカリオス】の娘【エリゴーネ】とする説。また、正義の女神【アテナ】とする説。エジプトの【イシス】とする説。バビロニアの【イシュタル】とする説等、実に多彩な女神の名前が列挙される。
 しかし、これらの女神を総じて見た時、そこには【正義の女神】と【農耕:豊穣の女神】と言う共通点が見て取れる。
 これだけ多くの女神が関連する所から見れば、処女宮:乙女座は、人々が考える【女性の持つ強さと優しさ】のイメージが、凝縮されていると判断する事も出来るだろう。
 【正義】は知性的な強さとして、【豊穣】は優しさとして捉えられたと考えられる。
 また、女性特有の【繊細さ】と【緻密さ】も有しており、それは時に【神経質】な【批判精神】として捉えられるのだろう。
 支配星【水星】の影響から、処女宮:乙女座は、【知的】で【多彩】な性質を持つと考えられている。
 同じ支配星を持つ【双児宮:双子座】とは少し異なり、【水星】の影響は、正確で鋭い識別能力として表現される。

 また、それぞれの神話に登場する女神は、特定の対象に献身的な行動をする傾向が見られる。その際、自分の持つ力を最大限に使用し、何とか対象を救おうとする姿勢があり、また、女性ならではの頑固さと言うか、男神をもギャフンと言わせる【忍耐強さ】も見せている。
 これも、処女宮:乙女座の持つ性質と言えるだろう。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【受動的】【従順】【神経質】【現実的】【堅実】【忍耐力】【慎重】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【水星】は、処女宮:乙女座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、処女宮:乙女座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【水星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 春分から約五ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【処女宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【蟹座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、春分の夜明けの地平線を基準に、150度〜180度に渡っての範囲が、【処女宮:乙女座】の場となる。

恋人達タロット【恋人達】との照応について。
【隠者】のカードは、伝統的に【隠れたる賢者:導師】としての解釈が中心で、処女宮:乙女座との結び付きは弱いように思われる。事実、結び付きそうな意味合いは、共通した【消極性】と【知性】のみと言えよう。或いは、女性の持つ【賢明さ】が、【隠者】の持つ【賢明さ】と結び付いたのかも知れない。
そう言う意味では、共通する意味も沢山考えられるが、しかし、同じ原因から同じ結果が出たとは言えず、違う原因から同じ結果を共有して結び付いたと言う印象が否めない。
実際、【隠者】のカードの起源は、時の神【クロノス】と考えられている事から、大部分において、後付けの繋がりであると言えるだろう。
【隠者】は【修道士】と考えられる場合もある。その時、【貞潔】を守る者として、【乙女】と結び付いたとも考える事が出来る。

人馬宮:射手座(Sagitarius)

人馬宮

二区分:男性宮
三要素:柔軟宮
四素子:火の宮
支配星:木星
タロット照応:節制


射手座の神話

 半人半馬の姿で知られる【射手座】は、単純に、古代ギリシア神話で登場する【ケンタウロス】と思われている。しかし、【射手座】のモチーフとなった賢人【ケイロン】は、ギリシア神話に登場する、一般の【ケンタウロス族】とは出自が異なり、姿形こそ似ては居るが、別種族と考えられている。
 賢人【ケイロン】は、時の神であり、大神【ゼウス】の父でもある【クロノス】と、ニンフの【ピリュラー】の間に生まれる。この際、【クロノス】が、妻【レア】の目を誤魔化す為、馬の姿になって【ピリュラー】と逢瀬を交わした為、【ケイロン】は、半人半馬の姿になったと言われている。
 一般の【ケンタウロス族】は、【イクシオン】と言う人物と、女神【ヘラ】の姿をした雲との間に生じた一族であり、概ね野蛮で乱暴な種族と考えられている。
 しかし、出自の異なる賢人【ケイロン】は、極めて善良で、正義感が強く、そして優秀な才覚の持ち主であった。
 賢人【ケイロン】は、神々の中でも評判が良く、太陽の神【アポロン】や、月の神【アルテミス】の指導を得て、音楽・医術・狩猟・馬術・弓術・予言等、優れた百芸を伝授される。
 その後、ペーリオンの山中に住み、普段は薬草等を育てて、病人の世話をして過ごし、請われれば、英雄達の英才教育も行った。
 ギリシア神話に出て来る多くの英雄は、賢人【ケイロン】に師事している。【ヘラクレス】【カストル】【イアソン】【アキレウス】【アスクレピオ】等、実に有名な神話の英雄達が、賢人【ケイロン】に教えを受けていた。
 【ヘラクレス】が【十の難行】を行っていた折、賢人【ケイロン】を訪ねる。その際【ヘラクレス】が無理なお願いをした事から、ペーリンオン山に住み着く【ケンタウロス族】と争いになり、その戦いの最中、【ヘラクレス】が誤って放った毒矢が【ケイロン】に刺さってしまう。この毒矢とは、怪物【ヒュドラ】の血が塗られたモノであった。
 親族の血を濃厚に受け継ぐ【ケイロン】は、不老不死であるが為に、毒で死ぬ事も出来ず、激しい苦痛に苛まされる。責任を感じた【ヘラクレス】は、旅の果てに知り合った【プロメテウス】に【ケイロン】の死を願い、【プロメテウス】が【ケイロン】の不老不死を引き受ける事により、【ケイロン】は毒の苦しみから解放され、死ぬ事となった。
 神々から厚い信頼を寄せられていた賢人【ケイロン】は、その死を悼んだ大神【ゼウス】の手によって、天上の星へと上げられる。

別説
  賢人【ケイロン】の出自について。馬の姿をしたのは、時の神【クロノス】では無く、河の神の血を引いた【ピリュラー】であってとも言われている。
 天上に上げられた賢人【ケイロン】は、それ以前に天上へと上げられた【蠍】を監視する役目を請け負っていると言われている。この【蠍】は、過去に【オリオン】を一撃の下に刺し殺したり、日輪車を運転していた【フェートン】を脅かし、死に至らしめると言う問題を起こしていた為、天上で暴れ出す事の無いよう、賢人【ケイロン】は、常に照準を【蠍】に向け、弓を引き絞っていると考えられている。

解説

 人馬宮:射手座の基本的な性質は、半人半馬と言う【二つの性質の統合】による、新しい力の誕生と、賢人【ケイロン】の持つ【賢さ(思慮深さ)】と【多才性】に焦点が当てられる。
 半人の部分は理性。半馬の部分は獣性(本能)を暗示し、その複合体である射手座は、理性と本能と言う【二面性のぶつかり合い】を示している。しかし、その【二面性】は、決して【表と裏】と言うような形にはならず、その葛藤の中に【統合性】が生じ、人馬宮:射手座の象徴する【多才性】へと昇華される。葛藤する二面性を統合する為に、自分自身を客観的に思弁する性質があり、哲学的な思考へと発展する事も多い。
 哲学的な思考は理性に由来するモノの、その理解や知恵の有り方には、本能的な【直感】も含まり、また机上の理論を良しとはせず、実学を重んじる為に、かなり行動的な面も併せ持つ。葛藤する二面性を否定的には捉えず、そこに前向きな力を見出す事が出来る為、正直で、楽天的な性格となる。また、成果を得る為の努力も惜しまない。
 但し、楽天的な性格と、行動を重視する性質とが相俟って、時に気付かず、軽率な言動に発展しまう場合がある。そして、本人には正しいと言う自信がある為か、暫くの間、その事に気付かない時がある。

 自分が成長する事に喜びを感じる為、自分の納得する目標を設定すると、極めて強い集中力を発揮し、矢の如く、迅速且つ真っ直ぐに進む。興味のある事については、高い理解力を発揮する。射手座の【多才性】は、あくまでも【自分の興味】に対する力の傾け具合で生じる為、全く興味の湧かない事に対しては、それ程優れる訳では無い。(但し、元々色々な事に興味を持つ為、事実上【多才】となる。)
 どちらかと言うと【個人主義】である為、束縛を嫌い、自由な立場を好む。しかし、内向的と言う訳では無く、自分の気持ちの赴くままに、自ら他者と交流する。

 神話において、数多くの英雄達の師匠を勤める、百芸の師:賢人【ケイロン】は、単なる武芸の師匠では無く、人生観・哲学の師匠でもあった。
 その人生観と哲学は、賢人【ケイロン】自身が負った、過去の傷に由来すると考えられる。賢人【ケイロン】は、時の神【クロノス】と、ニンフ【ピリュレー】の間に生まれるが、半人半馬と言う異形の姿を成している。人とは言えず、神とも言えず、しかし、同じ姿形をしている【ケンタウロス族】とも異なる。事実上、かなり孤独な出自である。しかし、神々に受け入れられ、様々な知識や技術を教えられる中で、【個】である自分に【可能性】と【自身】を見出す事によって、自らの足で世界に立つ事を覚え、それを受け入れる。この強さが、人としては異形な力を持つ【英雄達】を、精神的にも指導し得る力となったのだろう。
 射手座が象徴するのは、そう言った【自己に対する希望】である。
 その【自己に対する希望】を持つモノは、多少【他者】とは異なっても、目上の者達から認められ、積極的に知恵と技術を伝授される。そして、目下の者からも模範として仰がれる。自らが【師】を買って出るのでは無く、求める人が自然と周囲に集まる。
 彼は常に【個】では有るが、その【個】の周囲には、また多くの【個】が集まり、伝統の鎖。或いは、未来への可能性へ向けた矢が放たれる。

 【射手座】には、遥か彼方の虚空に対して矢を放つような、【未来への興味と前進力】がある。また、難しい問題に対して、自由に想像性を聞かせて思索する【思弁性】がある。
 これらが現実的な力となって現れる時、文学・哲学・宗教への適性となって表現される。また、職種としては、法律関連・外部交渉者・公務員等。或いは、これらに拘らず、自分が興味を抱く方向性については、万職に恵まれると言われる。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【積極性】【行動性】【指導性】【柔軟性】【融通性】【独立心】【強い意志】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【木星】は、人馬宮:射手座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、人馬宮:射手座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【木星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 秋分から、約二ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【人馬宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【天秤座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、秋分の夜明けの地平線を基準に、60度〜90度に渡っての範囲が、【人馬宮:射手座】の場となる。

タロット【節制】の照応について。
節制【14番 節制】のカードは、その名前の通り【節制】と、あらゆる精妙なバランス感覚を暗示する。【節制】の絵と、【人馬宮:射手座】の姿を見比べた時、その間に関係性を見出すのは難しい。二つの性質に関して言えば、【人馬宮】が【二者の統合】を暗示するのと同様に、【節制】にも【相反するモノの統合】と言う意味合いが存在する。また【精妙なバランス感覚】に関連し、思慮深く、柔軟な性質も持ち、これについても【人馬宮】の象徴する性質と似通っている。【節制】には、ある種の【救い】と【安らぎ】と言う意味があるが、【人馬宮】の場合は、【未来に対しての希望】と【過去に対する受け入れ】と言う意味があり、多少変換が必要になるが、似たような性質を持つと考えて良いだろう。或いは、タロットカードと占星術の関連性が成立した以降に、このような解釈が加えられたのかも知れない。【天秤座】と【正義】の組み合わせに比べると、若干その結び付きは明確とは言えないかも知れない。

双魚宮:魚座(Pisces)

双魚宮

二区分:女性宮
三要素:柔軟宮
四素子:水の宮
支配星:海王星・木星
タロット照応:月

魚座の神話

 大神【ゼウス】の祖父にあたる、大空の神【ウラヌス】が没する際、その体の一部が大海に落ち、そこから美の女神【ビーナス:アフロディーテ】が誕生する。
 美の女神【アフロディーテ】には、【エロス】と言う名の子供がおり、ローマでは【クピド】。現代では愛の神【キューピッド】と言う名前で知られている。
 有る時、美の女神【アフロディーテ】と愛の神【エロス】の親子が、エリダヌス川の畔を散歩していると、怪物【ティフォーン】が現れ、二人に襲い掛かった。
 二人は驚き、急いでエリダヌス川に飛び込み、魚へと変化して逃げる事にしたが、魚の体では互いに手を結ぶ事が出来ない為、お互いの体をリボンで結んだとされる。

 別説では、ナイル川の岸辺で催された神々の酒宴に、美の女神【アフロディーテ】と愛の神【エロス】が参加し、そこに現れた怪物【ティフォーン】から逃げる際に、ナイル川に飛び込んだとされる。
 いずれも、魚に変化し、互いの体をリボンで結び付けたと言う点で一致し、また、大神【ゼウス】の手によって、その情景が星座へと上げられたとされている。

解説

 双魚宮:魚座の基本的な性質は、【変化】と【変容】。
 古いサイクルの収束と、新しいサイクルの始まりを暗示し、その際にテーマとなる【相反する質の矛盾と融和】に焦点が当たる。
 神話から読む場合、二匹の魚は、片方が美の女神【アフロディーテ】。片方が愛の神【エロス】と言う事になる。
 【アフロディーテ】は女神(女性性)であり、無機的な【美】の象徴。【エロス】は、男神(男性性)であり、有機的な【愛】の象徴。
 この二者は、一見固く結び付けられた【一体のモノ】のように見えるが、実際には相反する部分が多く、意識的な結び付けを行わない限り、離散してしまう可能性が高い。
 特に、地上で象徴される【対外的な領域】では、簡単に手を結ぶ事が出来ても、水の中(川)で象徴される【心理的な領域】では、別々の要素として、手を結ぶ事は困難となる。
 双魚宮:魚座の性質は、この【二つの要素】が、内部でそれぞれ勝手に動こうとする事の苦悩と、その苦悩に対処する為の、意識的な【融和】。それに伴う、錬金術的な【変容】の可能性にあると言える。
 例えば、美の女神【アフロディーテ】によって象徴されるモノは、意外にも【内的な美】と言うよりは、物質的な充足の伴う、実在的な【美】である。目に見えない代物よりは、目に見え、耳に聞こえる事を重視する為、【愛】と言う抽象的な概念を理解し、受け入れる事が出来ない。
 逆に、愛の神【エロス】によって象徴されるモノは、【外的な関係性(恋愛関係)】では無く、もっと精妙で奥深い【内的な心の産物としての愛】である。これは、目に見えず、言葉によって表現出来るモノでは無い為、形式的なモノを受け入れる事が出来ない。物質的な充足や、実在的な【美】と言うモノを、自らの【愛】と結び付ける事が出来ない。
 この二つの性質を内包する【双魚宮:魚座】は、一見、外側からは単純な性質に見られ易いが、内側においては、常に軽度の混乱を伴っているとも言えるだろう。

 その内的な矛盾:混乱が表出すると、双魚宮:魚座は、かなり【高望み】で【我侭】な性質に成り易い。物質的な充実を求めながら、同時に精神的な充実も求める。
 現実的な世界において、これらを両立するのは難しい上、両立したとしても、互いに結び付ける事が難しい。
 そうした難しい問題に取り組む中で、究極的には、その矛盾の根源から【変化】させる事により、お互いの融和を図ろうとする。
 この【変化:変容】を迎えた時、男女が一体となり、新しい【一なるモノ】を作り出す。

 これが、双魚宮:魚座の取り組む一大テーマであると言えるだろう。


 さて、本来【対立する二者(ツイン)】と言う性質は、四大において【風】に分類される性質である。
 双児宮:双子座は、その名前通り二人の人間。天秤宮:天秤座は、二つの天秤皿。宝瓶宮:水瓶座は、二つの水瓶。このように、【風】の星宮は、二つのモノによってサイン(マーク)が形成され、常に【二面性】や【矛盾】と言うテーマが付き纏う。
 しかし、【水】の星宮に分類される【双魚宮:魚座】も、二者の対立と言うテーマを抱え、二つのモノによってサイン(マーク)が形成される。
 最終的には、【水】の性質である【溶解:融和】の作用によって、【二者】が【一者】へと変容するのだが、その過程の中で【風】のテーマとも取り組む必要がある特殊な星宮と言えるだろう。
 こう言った特殊性は、宝瓶宮:水瓶座にも見られる。
 宝瓶宮:水瓶座も、【風】の性質でありながら、【水】の性質にも関わって来る。
双魚宮:魚座は、【水】の性質でありながら、【風】の性質も関わって来ると言う事で、似たようなテーマを、逆向きにアプローチしていると考える事も出来るだろう。

 双魚宮:魚座も、他者との関わりの中で、自分のテーマを探求して行かなければならない。しかしそれは、宝瓶宮:水瓶座とは異なり、最終的には【内的な結実】として、自己完結する傾向が強い。
 その為、初期的には【他者依存度】が高いのに、最終的には【自己完結】し、他者を必要としなくなる場合もある。

 上記の傾向から、双魚宮:魚座は【宗教】と関わり深いと言う側面も見られる。
 宗教の【物質的な規律】と、【精神的な支柱】と言う二面性が、双魚宮:魚座にとっては大きな助けとなる。初期的には、その【宗教】に依存するが、【宗教】の持つ【矛盾の克服】【自己の完成】と言うテーマに取り組む中で、内的な【変容】を達成し、自立して行く。

 歴史的に見た場合、紀元から紀元2000年位までが【魚座の時代】となる。
 この時期は、春分の夜明けに、地平線から魚座が昇って来ていたのだ。
 この期間は、キリスト教などの大きな宗教達が、人々にとって重要な生活指針であり、精神的な支柱であった事を考えると面白い。
 また、イエス・キリストは、魚によって象徴される事もあった。

 物質的な充実を望む反面、精神的な充足を望んだ時代。そして、【心】と言う曖昧な概念に対して、ハッキリとした意識を持たず、内面において持て余し、混乱していた時代。その混乱を解決する為に、人の支えとなった【宗教】。
 ミレニアム(2000年)に近付くにつれ、徐々にその混乱は解決され、遂には【心理学】と言う【心と取り組む学問】が大成する。

 勿論、水瓶座の時代に入った現代でも、内面の矛盾は完璧に解決された訳では無いが、新たに、宝瓶宮:水瓶座によって象徴される新しい方法で、その矛盾と取り組む時代が来たのかも知れない。

 双魚宮:魚座の性質から、適職は【芸能芸術一般】【社会福祉関連職】【スピリチュアル関連】【海事関連職】等。また、初期的には、自分が享受する側ながら、訓練を積めば宗教関連や、心理学・カウンセラー等にも向いている。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【消極的】【追従的】【神経質】【柔軟】【内向的】【感情的】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【海王星】と、副支配性の【木星】は、双魚宮:魚座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、双魚宮:魚座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【海王星】と副支配性【木星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。
 ※古典的配属では、【木星】が支配性とされている。現在では、副主星とされるが、それでも多少なり、この星宮に影響を与えている。

 秋分から、約5ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【双魚宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【山羊座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、秋分の夜明けの地平線を基準に、150度〜180度に渡っての範囲が、【双魚宮:魚座】の場となる。

月タロット【月】の照応について。
 【18番 月】の主要なテーマは、不安や迷い。或いは、幻想やイマジネーションと言った、精神的・心理的な部分に焦点が当たる。
 このカード自体は、現実的な問題が生じる事を暗示する事は少なく、むしろ、人間の内部で生じる様々な問題を示す事が多い。
 勿論、そう言った【内部の問題】は、必ず【外部の現実的な問題】に反映される形で結び付くが、【月】のカードの中には、その結び付きに関するテーマ性は、殆ど語られる事は無い。
 カードの構図からしても、双魚宮:魚座に直接関連するような表現は無く、その意味で言って、カードと星宮の結び付きが弱い部類に入るだろう。
 構成のカード解釈(星宮との結び付け)を意識するのであれば、心理的な点に焦点が当たる事や、夜から夜明けへと移行する過程を、ある種の【変容】として捉える事に、結び付きを求める事が出来る。
これは、カードの解釈をより深める研究の為には有益と言えるだろう。
 但し、【月】のカードの原始的な捉え方や、占星術の【星宮】の基本的な考え方を捻じ曲げてまで納得される必要は無い。
 この二者の【相違】は、タロットカードの解釈と、【星宮】の結び付きが、後世の作品である事を示す、代表的な例と言える。