活動宮

白羊宮:牡羊座(Aries)

二区分:男性宮
三要素:活動宮
四素子:火の宮
支配星:火星
タロット照応:皇帝


牡羊座の神話

 古代ギリシアの神々が、ナイル川沿いで宴会を催していた折、地母神ガイアの子なる怪物【ティポン】が現れる。それに驚いた神々は、各々動物の姿に身を変じ、散り散りに逃げたとされる。その際、大神ゼウスは羊の姿に身を変えて逃げ、後に、その姿を大神ゼウス自身が星座に残したと言われている。

別説

 古代ギリシア。テッサリアの王【アイオロス】の息子【アタマス】。
 この【アタマス】は、妻【ネフェレー】との間に【ヘレー】と【プリクソス】と言う二人の子供を得ます。
 その後、事情があり妻【ネフェレー】は姿をくらまします。
 そこで【アタマス】は、後妻として【イーノ】と言う女性を娶ります。
 この時、【レアルコス】と【メリテルコス】と言う子供を得ます。

 さて、後妻【イーノ】は、テッサリアの王位継承権が、前妻の子供達にある事を妬ましく思い、【ヘレー】と【プリクソス】を計略に巻き込み、殺してしまおうと企みます。
 それを風の噂で知った前妻【ネフェレー】は、大神ゼウスに祈り、子供達を守ってもらうように懇願します。
 その願いを聞き届けた大神ゼウスは、金色の毛皮を持ち、空を飛ぶ事が出来る牡羊を送り、【ヘレー】と【プリクソス】を助け出します。
 二人を乗せた牡羊は、コルキスの地を目指して飛びますが、【ヘレー】が途中で落ちてしまい、死んでしまいます。
 生き残った【プリクソス】は、コルキス王【アイエーテス】から歓待され、娘【カルキオペ】を妻として娶ります。
 そして、牡羊をゼウスへの生贄として捧げ、金色に輝く毛皮をコルキス王に献上したと言われます。
 役目を果たした牡羊は、大神の手により、夜空の星座として輝く事になったと言われています。

解説

 白羊宮:牡羊座が持つ基本的な性質は、【原始的な生命力:繁殖力】と言ったモノで、総合的な【純粋、且つ積極的なエネルギー】として考える事が出来る。
 【羊】と言うと、牧歌的で穏やかなイメージを持ちがちだが、占星術を始めとした西洋のオカルティズムでは、むしろ【好戦的】且つ【勇ましい】イメージが強い。【羊】を生贄に捧げると言う風習も、単に【羊の肉】を捧げると言うよりも、その内側に秘めた【生命力:エネルギー】を捧げると言った方が正しいだろう。
 実際に、占術で扱う際の解釈は、【野心】【攻撃性】【積極性】【勇ましさ】【力強さ】【忍耐強さ】等。影響する範囲としては、【労働】【冒険】【富】【苦難】【試練】等。
 牡羊座の神話伝説により引き継がれる特性は、【スピード】。
 また【黄金の毛皮】と言うイメージから、【富】と【欲望の対象】。そして、それを手に入れる為の【冒険】と、それに伴う【試練】。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【指導力】【行動力】【創造力】【決断力】【自己顕示欲】【霊的純粋性】【強固な意志】【短期】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【火星】は、白羊宮:牡羊座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、白羊宮:牡羊座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【火星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 春分の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【白羊宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【水瓶座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、春分の夜明けの地平線から30度に渡っての範囲が、【白羊宮:牡羊座】の場となる。

 タロット【皇帝】との照応について。
 【皇帝】の持つ【支配性・積極性・創造性】等は、【白羊宮:牡羊座】の特性と親和性があり、大いに納得出来るだろう。同時に、【羊】の持つ【犠牲:生贄】と言うテーマが、国主としての役割(=国民・国家の犠牲)としての側面を表現する。
 国主は、国家・国民の為に、神々に捧げられる生贄であると言うのは、古代宗教において共通するテーマであり、それは、現代にも通用する事となる。
 故に【皇帝】は、集団における、最後の切り札としての【犠牲者】としての位置を暗示する。


巨蟹宮:蟹座(Cancer)

巨蟹宮

二区分:女性宮
三要素:活動宮
四素子:水の宮
支配星:月
タロット照応:戦車


巨蟹座の神話

 ギリシア神話の英雄【ヘラクレス】が挑む、12の難業に登場する巨大な化け蟹【カルキノス】が、その死後、女神【ヘラ】によって天上に上げられたモノ。
 英雄【ヘラクレス】は、大神【ゼウス】を父に持つが、例によって大神【ゼウス】の浮気によって生まれた【妾腹の子】である。
 それを知った女神【ヘラ】は、嫉妬にかられ、英雄【ヘラクレス】を呪い、発狂させる事によって、その妻子を殺させてしまう。
 英雄【ヘラクレス】は、贖罪の旅に出るが、神託により【12の難業】に挑む事になる。
 二つ目の難業は、アミモーネの沼【レルネー】に住む怪物【ヒュドラ】の退治であった。
 9つの首を持ち、その1つ不死、残り8つは首を切り落としても、次々の新しい首が生えて来ると言う恐ろしい怪物。
 英雄【ヘラクレス】は、苦心の末、8つの首を切り落とし、松明の炎で切り口を焼いてしまう事で、首の再生を阻止する。そして、最後の不死の首は、大きな岩の下に閉じ込める事で、退治する事になる。
 さて、巨大蟹【カルキノス】は、何処で登場するのか。
 巨大蟹【カルキノス】は、一説では怪物【ヒュドラ】と仲が良く、同じ沼に住んでおり、英雄【ヘラクレス】との戦いの際に、怪物【ヒュドラ】の助太刀をしたとされている。
 また一説では、女神【ヘラ】が、怪物【ヒュドラ】の劣勢を見て、助太刀に送り込んだとも言われている。
 いずれにせよ、巨大蟹【カルキノス】の最後はあっけ無いモノだった。
 怪物【ヒュドラ】と懸命に戦っている英雄【ヘラクレス】は、知らずのうちに、巨大蟹【カルキノス】を踏み潰して殺してしまう。
 怪物【ヒュドラ】と、巨大蟹【カルキノス】は、死後、女神【ヘラ】にその功績を認められ、天上の星座となった。 

 

解説

 巨蟹宮:蟹座が持つ基本的な性質は、有形の世界と無形の世界を繋ぐ【架け橋となる想像力】と、それに伴う【強い感受性】。水の宮であり、支配性に【月】を持っている事からも、多分に【情緒的】であり、【同情的】である。
 メンタルな領域での交感能力が優れている為、敏感に他者の心情を察知し、場合によっては強く共感する事にもなる。その為、逆に自分自身の気持ちが纏まらず、他者に影響を受けながら、精神的な混乱を引き起こしてしまい易い。また、自分の気持ちを一定に保とうとして、途端に頑固になり、怒りっぽくなる場合もある。
 巨蟹宮:蟹座の神話を見ると、登場した途端に殺されてしまう為、その背景に秘められた【巨蟹宮:蟹座の質】が汲み取り難い。しかし、その【汲み取り難い性質】も、ある意味ではこの星宮の持つ、特徴的な【質】と言えるだろう。巨大蟹【カルキノス】は、友(怪物【ヒュドラ】)を助ける為に、沼地から這い出て、英雄【ヘラクレス】に戦いを挑む。これは、この星宮が持つ、ある種の【献身性】と【同情心】を暗示している。しかし、英雄【ヘラクレス】に気が付かれる間も無く、踏み潰されてしまう事を考えれば、そう言った【献身性】や【同情心】が、他者に気が付かれる事無く、自分だけ傷付き、退く事になると言う、何とも不憫な性質も持っている。
 実際、この星宮に属する人間は、人知れず傷付く事が多い。
 これは【外骨格生物】である【蟹】ならではの特徴と言えるかも知れない。
 【外骨格生物】は、外側に硬い殻を持つ為、外側からの物理攻撃には強いが、内側に【骨格】を持たない為、その内面が脆く弱いと言う性質がある。
 これは丁度、思春期の少年達に見られる特徴にも似ている。
 一見して、何事も無く傷付いていないように見えて、心には深い傷を負っている。
 【活動宮】に属するこの星宮は、他者と関わって行く【積極性】を持つ反面、他者に影響を受け易いと言う【受動性】も備え、その自己矛盾との葛藤が、大きなテーマとなる。
 外側に強く出ても、内側は脆い。場合によっては、他者に気付かれないような、深い傷を負っている。その為、成長して行くにつれて、【人の弱さ】と言うモノを良く知るようになり、持ち前の【感受性】によって、同じように苦しんでいる人に気付いてあげる事が出来るようになる。また、【人の弱さ】を受け入れる事が出来るようになると、支配性【月】によって暗示される【母性】が働き、保護者としての性質が発揮され始める。
 【巨蟹宮:蟹座】は、有形無形の世界両方に渡って意識を伸ばす為、自然と【想像力(イマジネーション)】が強くなり、その【想像物】を具体化して行く能力を鍛える事で、芸術家・表現家としての適性が生まれる。物語作家・演奏家・詩人等。また、感受性の強さから、他者と共感し、足並みを揃える事が出来る特性があり、【模倣】の才能がある。この才能は、ある意味では【万能型】であり、どのような職種であっても、如才無くこなす事が出来る。その為、選ぶべきは【職種】と言うよりも【職場】であり、自分にストレスを与えない環境を吟味して職に就くのが良い。
 また、【感受性】の能力の延長線として、【人の痛みを知る力】を備えた場合、カウンセラー等の相談を受ける職や、母性を活かした【保育士】等も良い。
 その他、支配性【月】の持つ適職等も参考になる。
 恋愛等、感情が大きく影響する交流には、かなりのジレンマを抱える傾向にある。【感受性】と【献身性】が強い為、どちらかと言うと【尽くすタイプ】になり易く、しかも【積極性】も兼ね備える為、自分から【恋愛的問題人物】の射程に飛び込んで行く場合がある。
 支配性【月】の影響も色濃く、感情の移ろいに関わるような、様々な営みに繋がる。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【受動的】【従順】【積極的】【自己顕示的】【情緒的】【内省的】【同情的】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【月】は、巨蟹宮:蟹座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、巨蟹宮:蟹座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【月】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 春分から約三ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【巨蟹宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【雄牛座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、春分の夜明けの地平線を基準に、90度〜120度に渡っての範囲が、【巨蟹宮:蟹座】の場となる。

 タロット【戦車】との照応について。
 【戦車】のカードは、伝統的に【葛藤の中の前進】と【問題の克服】【勝利】等を主要テーマとする。タロット成立初期の絵柄を例外として、【戦車】に描かれる人物は、大体【鎧】を纏っているが、これは【蟹】の特徴である【外骨格】に通じ、外側には強く、内側が脆いと言う特徴を共有する。また【戦車】の絵柄では、白と黒の二匹の生物に台車を牽かせて居るが、これは思春期に起こりがちな【二つの心の葛藤】の表れであり、他者には見えぬ内面で起こる【心理的な戦い】の描写とも言えるだろう。【戦車】のカードは、戦車と言う乗り物と、その台車を牽く二匹の生物によって【積極性】が暗示されるが、同時に、その内面の弱さや、周囲からの影響のされ易さ等があり、【巨蟹宮:蟹座】特有の【自己矛盾】がテーマとして示されている。
 【戦車】と【巨蟹宮:蟹座】の双方は、その性質を安定させる為、【一定の速度の維持】が必要となる。【女性宮:水の宮】でありながら、【活動宮】に属する【巨蟹宮:蟹座】は、その【積極性】を抑制してしまうと、途端に心理的なバランスを失ってしまうし、【戦車】のカードも、速度を緩める事で、台車のバランスが崩れてしまう。
 走り続ける中で心理的なバランスを取り、外部の問題に取り向かい、或いは、外側に投影された内部の問題と取り組む。それは、人知れる事無く戦いかも知れないが、最後には、天上の母の目に止まり、その功績を称えられ、栄誉を与えられる事になるのだろう。

天秤宮:天秤座(Libra)

天秤宮

二区分:男性宮
三要素:活動宮
四素子:風の宮
支配星:金星
タロット照応:正義


天秤座の神話

 大神【ゼウス】と、正義と伝統の神【テーミス】との間に生まれたのが、正義と天文の女神【アストレイア】。この【アストレイア】が、人間の正義と悪とを量る為に持っていた【天秤】が、女神【アストレイア】が星座となった折に、一緒に星座となったと考えられている。

 古代、神話の時代は、【黄金の時代】【銀の時代】【銅の時代】に分けて考えられる。
 【黄金の時代】は、最も地上が平和な時で、神々と人間が共に暮らし、虚偽・不平不満・争いは無く、また、食べるモノにも困らなかったと言われる。
 【銀の時代】になり、四季が生まれると、人は家を建て、農耕を始めるようになり、貧富の差。強者弱者の差が生まれるようになったと言われる。争いも増え、多くの神々が人間に愛想を尽かし、天界へと引き上げてしまった。そんな中、正義の女神【アストレイア】だけが、望みを捨てず、人間に正義を説いて回ったと言われる。
 しかし、【銅の時代】になると、地上は虚偽・不平不満・争いに満たされたようになり、正義の女神【アストレイア】も、とうとう天界へと引き上げてしまう。
 この折、女神【アストレイア】自身が星となり【乙女座】が生まれ、持っていた【天秤】が【天秤座】になったと言われている。

その他に・・・

 【天秤座】は、【乙女座】と【蠍座】の間にある、極めて小さな星座であるが、独立した星座として認定されたのは、紀元前46年と、他の星座に比べて極めて遅い。ユリウス暦が制定された際に、この小さな星座は、正式に【十二星座】の一つと認められた。
 それ以前は、【蠍座】の【爪】と見做されていたと言われている。

 もっと昔に遡り、紀元前3000年頃であると、天秤座の中央が秋分点であったので、太陽がここにある時、昼夜を均等に分かつと言う意味で、天秤と見做されたのでは無いかと言う説もある。

 黄道十二星座は、ローマの時代に完成したと言われているが、古い伝統を復古させたと考える説もある。

解説

 天秤宮:天秤座の基本的な性質は、正義の女神【アストレイア】の持つ【秩序】と【礼節】では無く、【アストレイアの天秤】に象徴される【均衡】と【公平さ】に焦点が当たる。対立する二元論の中の中庸。二者の間の均衡が強調されていると言えるだろう。
 【天秤】で物事を量る結果が明快であるように、何事にも【明朗:明快】である事を好み、また、一方に偏らない【公平さ】を重視する。支配性に【金星】を持つ事から、芸術的な感性も持ち合わせるが、同じく【金星】を支配性に持つ【金牛宮:牡牛座】とは異なり、数学的均整の取れた芸術を好む傾向にある。【金牛宮:牡牛座】は、自然な状態を重視する為、アンバランスな中に芸術性を見て取る傾向にある。
 【天秤】の性質から、物事を比較したり、客観的に認識する事に長け、その能力を駆使した上で、人を上手に説得する力を持っている。
 バランス感覚が極めて優れている反面、二者の間に板挟みになり易い傾向もあり、偏向的決断を要する場面では、優柔不断になってしまう事も多い。

 神話において、正義の女神【アストレイア】は、【天秤】によって人間の善悪を量っていたが、最終的な判断を下すのは【アストレイア】自身であった。
 その事から考えると、【判断力】と【批判精神】は【アストレイア】自身である処女宮:乙女座に配され、その【比較能力】と【公平さ】は【アストレイアの天秤】である天秤宮:天秤座に配されたと考えるのが妥当だろう。
 その為、処女宮:乙女座には、少し偏向的な性質があり、天秤宮:天秤座には、決断力に欠ける部分があると考えられる。

 また、与えられた新しい情報を、常に【天秤】に乗せて量る為、その時々で天秤皿の傾く向きが異なる場合もある。その為、周囲から見ると、心変わりし易く、移り気であると見られるが、本人にとっては、新しい情報を加味した上での、客観的な判断であり、心変わりをしている訳では無いのだ。

 神話において、【アストレイアの天秤】は、人の善悪を量る道具だったが、それは単純な二元論に中おいて、二者の対立を示すと言うよりも、二者の調和とバランスを示すモノだったと考えられる。
 つまり、善悪の二者を戦わせて、どちらか一方に勝利を与えるのでは無く、その総量を均等に合わせる事により、調和をもたらそうと言う考え方と言える。
 10の利己的な悪行には、10の利他的な善行を持って償わせ、10の利他的な善行には、10の利己的な報酬を持って報いる。
 【アストレイアの天秤】にとって、【本当の悪】とは、その均衡の破壊であり、【本当の善】とは、その均衡の回復にあると考えられる。
 その前提は、【過ちは悪である】と言うモノでは無く、むしろ、【人間は過ちを犯すモノである】と言う考えの上で、【その過ちを、如何に補うか】と言うテーマが有るように思われる。
 この二者の総量がバランスを欠いた時、本当に【アストレイア】の失望を招くと言えるだろう。

 支配星【金星】の影響からは、優れた美的センスを得る。
 先程も述べたが、その美的感性は、数学的な均整の取れたモノに強く反応する傾向にある。【アストレイアの天秤】にとって、バランスの取れたモノは、即【真】であり【善】であり【美】なのだ。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【積極的】【指導的】【活動的】【自己顕示】【美意識】【社交的】【知識欲】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【金星】は、天秤宮:天秤座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、天秤宮:天秤座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【金星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 秋分の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【天秤宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【獅子座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、秋分の夜明けの地平線を基準に、0度〜30度に渡っての範囲が、【天秤宮:天秤座】の場となる。

正義

 タロット【正義】との照応について。
 【正義】のカードは、伝統的に正義の女神【テミース】、或いは【テーミス】の子であり、母親と同じように正義の女神である【アストレイア】、或いは正義の大天使【ミカエル】の象徴化と考えられている。
 実際のカードには、片手に天秤を持ち、片手に剣を持つ女性が描かれている為、正義の女神【テーミス】の要素が強いと考えられる。
 天秤宮:天秤座と【正義】のカードの結び付きは強く、共通する意味合いも多い。
 特に【均衡】と【調和】は、【正義】のカードの主要なテーマでもあり、また【善悪】の概念についても、単なる【勧善懲悪】と言うニュアンスでは無く、【悪行には償い】【善行には報酬】と言った、【総量のバランス】を重視する性質も共有する。
 近代タロットにおいて、【11番】を配される【正義】のカードは、タロット史上、特殊な経緯を持っている。元々は【8番】であった【正義】のカードが、明らかに【テミス】の象徴であろうと言う事から、当時【11番】であった【剛毅】のカードと入れ替えられた。【剛毅】のカードには、獅子と向き合う処女が描かれていた事から、獅子宮:獅子座と結び付けられ、【8番】に配置されるようになった。

磨羯宮:山羊座(Capricorn)

磨羯宮

二区分:女性宮
三要素:活動宮
四素子:地の宮
支配星:土星
タロット照応:悪魔


山羊座の神話

 黄道十二宮の中でも、最も古い星座の一つとされる【磨羯宮:山羊座】は、古代ギリシアの森の神、牧羊神【パーン】とされている。
 出自には、様々な説があるが、その中で最もメジャーなのが伝令神【ヘルメス】と、ドリュオプス王の娘【ドリュオペ】との間に生まれたと言う説である。
 牧羊神【パーン】は、非常に奇妙な姿形をしていると伝えられており、上半身は毛深い人間の姿で、獣のような尖った耳と、山羊のような角を持ち、下半身は、山羊の蹄を持っているとされる。奇妙な姿な上、生来の笑い好きであり、それを見た乳母は、恐れて逃げてしまったと言う程である。
 しかし、これもまた笑い好きであった伝令神【ヘルメス】は、【パーン】の出生を喜び、神々の住む【オリュンポス】へ連れて行き、神々に披露した。神々は大いに喜んだと言う。
 この際、【全ての神を喜ばせるモノ】として、【全て】を意味する【パーン】と言う名前が与えられたと言う説がある。

 牧羊神【パーン】は、大神【ゼウス】にも勝るとも劣らない程と好色で、常に女性の尻を追いかけていた。
 ある時、アルカディアの地に住む【シューリンクス】と言う名のニンフに出会い、追い掛け回す事になる。後一歩で捕まると言う時に、【シューリンクス】は川のニンフに助けを求め、川辺に茂る【葦】へと姿を変えてしまう。これを悲しんだ【パーン】は、その葦を何本か刈り取り、【葦笛】を作って吹き、愛用したとされる。この葦笛は【パーンパイプ】或いは【シュリンクス】とも呼ばれる。

 さて、神々がナイルの川辺で宴会をしていた時。牧羊神【パーン】は、前出の【シュリンクス】を吹きながら、意気揚々としていた。すると、何処からとも無く、お酒の匂いに釣られて、怪物【テュフォン】が乱入し、大騒ぎとなった。牧羊神【パーン】は、魚になってナイルの川に逃げようとしたが、余りにも突然の事だった為か、川に浸かった下半身のみ魚、上半身は山羊の姿と言う、あべこべな姿になってしまう。神々は、この姿を見て大笑いし、ゼウスがこれを記念して、星座にしたと伝えられている。実際の星座の姿も、全身が【山羊】と言う訳では無く、この上半身山羊、下半身魚の姿で描かれている。
 各言うゼウスも、この時慌てており、羊の姿になって逃げたと伝えられており、一説では、この姿は牡羊座として星座に上げられたと言われる。

別説等

 牧羊神【パーン】の出自については、もっと哲学的な伝承も残っている。オルペウス教の創世神話では、原初の【宇宙の卵】から生まれた神と同一視し、同じく、一説において原初の神とされる【エロス】と同一視する場合もある。また、これを受けてか、ストア派の哲学者達からは、【全て】を意味する【パーン】の名前から、牧羊神【パーン】を、宇宙全ての神と考えていたともされる。
 月の女神【アルテミス】に猟犬を与え、太陽の神【アポロン】に予言の秘密を与えたと言う伝承もあり、そう言った要素を鑑みると、前時代に名残を持つ、かなり古い神の一人であろうと考えられる。

解説

 磨羯宮:山羊座の基本的な性質は、神話からは想像出来ない程【堅物】なイメージが強い。【物質】と、それに伴う【価値観】に強い焦点が当たり、同時に、それらに対する【所有欲】が全体を性格付ける傾向にある。
 現象界を形作る様々な【物質】と、それに作用する【法則性】を、かなり厳格に重んじると同時に、強い執着も持つ為、他方から見ると【唯物主義】に写る事も少なくない。
 事実、磨羯宮:山羊座の質は、【物質の深み】を最も良く知る存在だと言えるだろう。
 【物質性】に強い適性を見せる反面、【精神性】には極めて鈍感で、弱く、他者の感情や精神に心を配る事が出来ない他、自分の事ですら、感情や精神の機微に気付く事が出来ず、強く抑制するか、或いは、コントロール不能となり、暴走してしまう傾向がある。
 その為、強い物質性と、厳格な姿勢が崩れる程に精神が動揺した場合、極端に常軌を逸した言動に発展する場合もあり、その場面こそ、まさに牧羊神【パーン】のような滑稽さに転じる事となる。

 磨羯宮:山羊座の性質は、証拠や論拠のハッキリしない存在や方法論を【良し】とはしない。全て、自分の目や耳で確認出来る事を至上とする為、他者の考え等を容易に信じず、自分の方法論を絶対し、場合によっては他者に押し付けてしまう傾向もある。自分で作ったルールの中に閉じ篭り、極めて【頑固】な性質を発揮して、他者の助言に耳を傾ける事が出来ない事も多い。

 基本的には、現実主義で勤勉で堅実。周囲から見て大人しく冷静に見えるが、その内側には、強い野心と、嫉妬深さも併せ持つ。

 自分の持っている【物質】や【価値観】を失う事を、最大の恐怖と考える傾向にあり、その為、保守的になり、他者よりも進化し難い傾向がある。

 牧羊神【パーン】は、その【山羊】に似た姿から、獣的な強い生殖能力と、機能的な豊饒性の暗示も持つ。この二つの能力は、物質世界において、強い権威と影響力を持っている為、物質的な成功には恵まれ易い。
 但し、その強い【物質欲】の性質が、キリスト教文化には危険視されたのか、キリスト教が強い影響を持ち始めると、悪魔の典型的な姿として引用されるようになる。
 キリスト教文化では、キリストを信望する信者を【羊】と見做し、それを荒らす異教徒、不信心者を【山羊】と見做した。

 悪魔は、無秩序な快楽主義者と見做されているが、実際には、ある種のルールと義務に強く縛られた存在と言える。
 悪魔の中にも階級制度があり、また、それぞれが請け負う【仕事】が存在する。その【仕事】をこなすにしても、一定のルールに従う必要があり、そのルールを破る事は、原則的に不可能である。
 但し、そのルールの中で、如何に相手の心を惑わし、自分に有利な状況を作り出すかを心得ている為、極めて厄介な存在だ。
 悪魔は、ルールの中であれば、自分の為に、どのような手段を使う事も厭わない。

 これらの事は、磨羯宮:山羊座の性質においても、同じ事が言える。
 自分の価値観やルールを破る事はしないが、自分の野心を実現する為に、その中でどのような手段を使う事も厭わないのである。

 牧羊神【パーン】も、その自由で滑稽な姿で想像出来る性格とは反して、他者を驚かせ、笑わせる事に対する、自分なりの【価値観】と【こだわり】を持っていたのかも知れない。自分が、神々の中で、自分の地位を維持する為に、【道化役】に打ち込み、その重い義務感を、背中に背負っていたのでは無いだろうか。

 【磨羯宮:山羊座】には、好意的な適性として、【物質と価値に対する深い理解能力】と【その活用の知恵】が存在する。それは、文化:文明に拠って進化をし続ける人間達にとって、放棄し難い貴重な力であると言えるだろう。事実、人間の物質に対する【欲望】と、未来に対する【野心】こそが、今の人間の繁栄を支えていると言えるだろう。物質が全てであるとは決して言えないが、重要な要素である事には間違いが無い。
 さて、これが現実的な力となって現れる時、社会を運営する強力な影響力を持つ職業に適性が現れる。医学研究:法律家:政治家:思想家:教育者等。勤勉で厳格な姿勢が基底となる為、精細さを要求される仕事に向く。但し、一度道を踏み外すと、悪影響も甚大となる。
 牧羊神【パーン】の影響からか、音楽関係にも適性が現れると言われる。

 【区分】【要素】【素子】のバランスからして、【消極的】【従順】【実働的】【野心的】【現実的】【堅実】【慎重】等の意味合いも出て来る。

 支配星の【土星】は、磨羯宮:山羊座を突き動かす【原理的なエネルギー】であり、全体的な【影響力】として残る。その内側にあって、そのエネルギーの個性表現として、磨羯宮:山羊座の特性が生まれると考えられる。
 支配星【土星】が象徴するフィールドについては、【惑星解説】を参照の事。

 秋分から、約3ヵ月後の夜明け時に、地平線より現れる星宮が、【磨羯宮】である。
 実際に現れる星座は、今現在【蠍座】であるが、占星術の基本として考えられる【星宮】は、【仮想天体】、若しくは【影響領域】と言う位置付けであり、秋分の夜明けの地平線を基準に、90度〜120度に渡っての範囲が、【磨羯宮:山羊座】の場となる。

 タロット【悪魔】との照応について。
  悪魔【15番 悪魔】のカードは、タロットカードの中で【死神】【塔】に次ぐ凶兆のカードとして嫌われる傾向にある。実際に、これらのカードが忌むべき災難を暗示するかどうかは兎も角として、伝統的に暴力や誘惑や堕落と言った、ネガティブなキーワードが与えられているのは事実だ。さてしかし、悪魔のカードは、現実:現象的なトラブルを暗示する事は少ない。むしろ、精神的な部分に重たく粘着質な影響を与え、その反響として、現実的な問題を招くか、或いは、既存の問題において、泥沼に嵌って行く事になる。【悪魔】のカードは、精神面の影響としては、極めて悪い暗示である事は確かだ。しかし、金銭面:仕事面など、物質性に拠る部分については、むしろ良い影響を与える事も多い。自分の意識が向く方向に強い野心があれば、仕事の上で、他者を追い落としてでも成功を勝ち得る可能性もあれば、ギャンブル等において、金銭的な幸運を掴む可能性もある。但し、その代償として、精神性を大きく失ってしまう可能性がある事も否めない。【磨羯宮:山羊座】との結び付きは、むしろ、そう言った【物質的な強さと、精神的な弱さ】に焦点が当たっていると言えるだろう。単に【忌むべき悪魔】としての性質は、むしろ、好色で無秩序な牧羊神【パーン】との関連の中に、見出す事が出来る。比較的、結び付きの強い関係性であると評価出来るだろう。