タロットについて

タロットの起源

 何かしらの解説をする場合、その起源から辿るのが順当かと思う。
 しかし、ここで扱うタロットに関して言えば、その起源を説明するのは難しい。古くから様々な起源説が提唱されてはいるものの、それらの説を立証する歴史的文献や、確固たる証拠となるものが存在していないからだ。
 例えば、古くから言われている有名な説に『エジプト起源説』と言うものがある。
 しかし、古代エジプトの記録に【タロット】の名が登場する事は無く、勿論その時代その場所の物とされるタロットが発見されている訳でも無い。

 『エジプト起源説』を提唱したのは18世紀のフランスの著作家(プロテスタント牧師でありフリーメイソンの会員でもあった)アントニオ・クール・ド・ジェブランだと言われている。
 彼はふとした切っ掛けでタロットカードと出会い、ある閃きのもと即座にこれを『失われた古代エジプトの象徴画本』と断じ切ったと言う。
 当時は未だ【ロゼッタストーン】が発見されておらず、古代エジプトの象形文字である【ヒエログリフ】は解読されていなかった。つまり、エジプトの実際の歴史はまだ漠然としていて、タロットが古代エジプトに存在したか等は知る由も無かった。
 また当時、西洋ではエジプトが大ブームであったらしい。きっとジェブラン本人も、エジプトフリークだったのだろう。時代背景もあり、その時に発見されたタロットは、ちょっと安直に『エジプト紀元説』に結び付けられた。
 勿論、ジェブランの単なる直感と言う分けでは無かったのかも知れない。ジェブランの見たカードに、直感的にもそう思える寓意を見出すことが可能であったとも考えられる。
 ジェブランが提唱した『エジプト起源説』は、当時のオカルティスト達の絶大な支持を得たと言う。その影響力は暫く続き、現在にも及んでいるのである。

 さて、『エジプト起源説』と連立するのが『ユダヤ起源説』である。
 この説の提唱者は、19世紀の神秘思想家エリファス・レビ。本名をアルフォンス・ルイ・コンスタンという。キリスト教の神職も勤めた経験のあり、【近代西欧魔術の父】とも呼ばれる人物である。
 彼はタロットの大アルカナ22枚を、ヘブライ文字アルファベット22文字と照応させ、カバラと深く結び付けた。カバラとは、ここでは簡単に『ユダヤ教の秘教的側面』とでも考えて頂ければ充分だろう。
 レビは、タロットの構成とカバラの教義との間に見られる親和性から、タロットの起源がユダヤの教えから来ていると発想したようである。
 レビの提唱した『ユダヤ起源説』も、当時のオカルティストに支持を受けた。元々エジプトとユダヤは、昔から深い繋がりを持っていた所から、この二つの説は大きな衝突もなく受け入れられたようである。

 『ジプシー起源説』と言うのもある。
 放浪するジプシーが、タロットを広めたと言う説である。この説が言われていた頃、ジプシーは古代エジプトから流れてきた人々だと思われていた所から、『エジプト起源説』を受け入れた人々には、違和感なく迎え入れられた様子だ。
 しかし、歴史的な観点から見ると、この説はかなり怪しい。ジプシーがヨーロッパに至った頃には、タロットと思しき物はすでにそこにあったし、近年の研究では、ジプシー達の故郷は、エジプトでは無く、インドの方面であろうと言われている。。

 これら以外にも、中国が起源とする説やインドが起源とする説など、様々な説が提唱されてはいるが、いずれにせよ確固たる証拠や歴史文献は存在しておらず、結局タロットの発生は不明瞭なままなのである。

 現在になり、タロットの起源に関する研究は進み、かなり信頼性のある答えが得られている。
 タロットと言える構成の代物が生まれたであろう時期は、15世紀頃だと目されている。
 タロットに言及した最も古い歴史的資料は、イタリア・フェラーラの宮廷記録(1442年)であり、一方、現存する最古のタロットが発見されたのもイタリア・ミラノである。
 フェラーラの宮廷記録には、宮廷へ献上(?)されたカードの代金支払いの記録が残されている。現存する最古のタロットは【ビスコンティ・デ・モンドローネ】【ブランビラ】と言われる二つのパックである。現物は、大英博物館に飾られている模様。

 現在でも、起源をもっと過去に遡れないかと研究されてはいるが、今の所は【イタリア15世紀紀元説】が業界標準となっているようだ。

 さて【イタリア15世紀紀元説】は、あくまでもタロットが現在の形に成立した年代を示している。
 しかし、それ以前にタロットの元型となるモノは存在しなかったのだろうか?
 実際には、タロットに描かれている様々な象徴画や、その概念は、もっと昔に遡る事が出来るだろう。それこそ、【古代エジプト紀元説】も、あながち的外れでは無いかも知れない。
 【正義】と呼ばれるカードがあるが、そこに描かれているモチーフは、かなり昔の時代から受け継がれている。【審判】と呼ばれるカードは、新約聖書に描かれる【ヨハネの黙示録】がモチーフではなかろうかと言われている。【戦車】のカードは、旧約聖書に描かれる【エゼキエルの幻視(メルガバー)】がモチーフかも知れない。
 結局の所、タロットの種がいつの時代に撒かれたかは解らないが、恐らく、西洋の秘教的伝統を、様々な所で拾って来たのでは無かろうかと思われる。

タロットは何の道具か?

 『当然占いの道具だろう?』と考えられがちだが、それは少々誤解である。
 確かに現在、タロットは主に占いの道具として用いられてはいるが、過去には遊戯用としての用途が主である時代もあった。

 現在私達日本人が『トランプ』と呼ぶ遊戯用カードと、占いで扱うタロットカードには、深い関わりがある。
 まず二つの相反する説がある。つまりタロットカードの小アルカナが遊戯用に進化し、トランプとなったという説。逆にトランプゲームの内容が複雑になった段階で、タロットに進化したという説。
 現在の歴史的研究の結果から、正しいのは後者の説だと目されている。
 トランプカード(正式にはプレイングカード)は、14世紀頃に現在のイスラム圏からヨーロッパに伝わったと言われている。
 タロットが成立したのが15世紀のイタリア。時代から考えると、トランプが進化し、タロットになったと考えた方が正しい事になる。
 イスラム圏からヨーロッパに伝わったトランプは、遊戯を盛り上げる為に切り札を増やし、所謂【小アルカナ56枚】と【大アルカナ22枚】に成立したのだと思われる。

 以上の事から考えると、恐らくタロットは元々遊戯用カードとして誕生したものであろう事が分かる。
 実際に、タロットが初めて占術に使用されたであろう時期は、何と18世紀のフランス。パリのカード占い師【エッティラ(本名 アリエッテ)】が、初めてタロットを占術に用いた人物だとされている。

 現在では、成立初期の【遊戯用】と言う目的の枠を大きく越え、様々な目的に用いられる。今やタロットは遊戯に使っても良し、占い用に使っても良し、アンティークとして使っても良し。使い方によって様々な効果をもたらしてくれるのだ。

オカルティズムにとってのタロット

 さて、どうやらタロットカードは遊戯目的に誕生したようだが、タロット誕生後のその体系は、西洋神秘学の伝統に大きな影響を受けて来た。
 特にタロットが、オカルト的側面を開花させた18世紀頃からは、西洋神秘学が育んで来た象徴教義を注ぎ込む対象になったと言えるだろう。
 都合の良い事に、西洋オカルティズムで重要視される【カバラ】と、なかなか相性の良い構成になっていた為、22のヘブライアルファベットを22枚の大アルカナと照応させ、同時に【四大】や【12宮】【七惑星】等の伝統的な象徴を割り当て、エジプトの神々やギリシアの神々を割り当て・・・
 今は、現在のスタンダードなデッキ78枚に描かれる象徴画は、正に西洋神秘学の象徴教義の宝庫となってしまった。
 タロットを学ぶにあたって、その深い内容を追究していけば、その根は広く西洋オカルティズム全般に及ぶ事になるだろう。。
 それは膨大な量の知識・技術の情報である。しかしその膨大な量の情報を、タロットは78枚は、その構成の中に蓄える事を可能としたのだ。
 オカルティズムにとってのタロットとは、象徴言語によって画かれた書物でもある。象徴一つ一つが蓄える多くの意味と、それを結びつける多くのパターンが、78枚のカードを膨大な知識を納める書物に構成する。オカルティスト達はその書物を読み解くことで、深い神秘の智恵を得ようと尽力する。

タロットの歴史の纏め

 タロットが、現在の形に成立したのは、どうやら【15世紀イタリア】であるらしい。
 また、誕生当初の存在目的は【遊戯用】であったらしい。
 その後、何の因果か18世紀にオカルト(隠秘学)的側面を開花させ、今では占術アイテムとして代表的な一つとなっている。
 思うに【タロット】とは、それ自身が目的を持つと言うよりも、それを扱う人々が目的を見出すのだと思われる。
 他の伝統的な占術と比べれば、実に歴史が浅く、若々しい事この上ない。
 仮に、占星術の歴史を4000年とし、働き盛りの40歳とすると、タロット占術の歴史は230年。何と、2歳児である。
 逆に、発展途上で色々な可能性を秘めている。
 2歳児であったとしても、タロットの種は、ずっと昔から撒かれて居ただろう。
 それは西洋の伝統の広範に渡る事が予想される。
 古き占星術。カバラの叡智。普遍的数秘。そしてヘレニズムに開花した様々な思想・哲学。忘れてはならないキリスト教の伝統。
 それらは、親から受け継いだ遺伝子の様に、タロットの中に潜在的に隠されているのかも知れない。
 後は、この大切な時期をどう育てて行くか。
 今時代のタロッター全てのテーマでは無いだろうか。

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