【]V】

名称 『デス』 『DEATH』 『死神』

主キーワード 死・終結・結末・変容・変革・タイムリミット
          再生・回帰・刷新・リスタート・選別・新しくなる

『私は盗人のようにやって来る。農夫の如き良き目を持ち、良く実る稲穂を刈り集める。病んだ稲穂は地に投げ捨てる。そこで再び大地に帰り、新たに芽吹き、良く実るが良い。この稲穂には耳がある。その耳は聞くが良い。私を仰ぎ見る者は幸いだ。汝らは死の恐怖から救われる。私は生きるべきものを刈り取りはしない。ただ天上へと持ち運ぶ。私を知らぬ者は災いだ。彼らは死を恐れるが故に、自ずから殺される。彼らは地に伏し、再び芽吹くのを待つが良い。尚、聞くが良い。善く死ぬ為に善く生きよ。多くの喜びを天上へと運ぶ為、喜びを持って善く生きよ。死は私の担う所。私に任せれば良い。』

 ナンバー『]V』を割り当てられる【死神】のカードは、一般的には【死】の恐怖を駈り立てる凶兆のカードだと思われている。しかし、このカードが出て【死】を迎える人は極めて少ない。むしろ、このカードに救われる人間の方が多いだろう。厳密では無いが、このカードは結局の所、救いを示すカードでもある。それは単なるカタルシック(悲劇的浄化)な意味合いでは無い。【死神】は、全てのことについて【終り】を示すカードなのである。苦痛や苦難を終わらせるのも彼の役目である。しかし勿論、喜びをも彼は終わらせる。喜びは長く続くものでは無い。長く続く喜びとは、常に【刷新】されているものであり、常に変容しているものである。彼は【終り】を告げることによって、【再生】を兆す。彼は決して、人の人生を無視して奪う奪略者では無い。彼が刈り取ったものは、然るべき記念碑に刻まれ続ける。

示唆 死・終わり・言い知れぬ不安・苦難の終結・喜びの終結・刷新・再生

 カードに描かれているのは、白馬に乗る死神。彼は甲冑を身に纏い、バラの旗を掲げている。彼は【来る者】であり、決して我々が彼に向かって歩いているのでは無い。彼から逃れようと走っても、彼の馬は素早く追いつく。彼に抗い、剣を振るう者が有っても、彼の甲冑を突き崩すことは出来ない。彼が来るのはいつも突然である。しかし、彼の到来は常に公平でもある。必ず彼は訪れる。しかしいつ現れるかは分からない。
 王であっても、聖職者であっても、女であっても、子供であっても、彼は公平に現れる。そして【終り】を告げることになる。彼の前にひれ伏し、或いは祈ったとしても、彼には意味を成さない。彼が聞く所は、その人物の人生の足音であり、またその時かを知らせる時計の音だけである。全ての人間は、彼の掲げる黒い旗を見ては息を呑む。それは抗い難き、【終り】の徴だからだ。

示唆 到来する変化・抵抗出来ない変化・突然の変化・公平な変化・予測出来ない変化
   過程の清算・その時(タイミング)・予兆・タイムリミット

 カードの遠方には川が描かれている。これは黄泉の川であり、日本では【西院の川】と呼ばれている。その川を通過した者は、川を渡る前に持っていたものを全て川に流す。対岸に着く為には、此方側で得た全てを放棄しなければならない。持って運べるのは、此方岸で成長した【魂】だけである。更に遠方には、二つの塔と地平線に掛かった太陽が見える。二つの塔は、境界を仕切るものであると同時に、聖別された世界への門でもある。その門は【死の門】とも呼ばれる。そこを通過した後、その門を振り返ると、それは【誕生の門】と呼ばれることになる。彼(死神)の守る門は、死と誕生の境なのである。太陽は沈もうとしているのか、それとも昇ろうとしているのか。いずれにしても、地平線に掛かる太陽は死の境界に居る。太陽は【生命】を象徴する。正位置であるなら、今正に沈もうとする時であり、死を迎えようとしている。逆位置であるなら、今正に昇ろうとする時であり、新たな生命が誕生しようとしている。どちらも同じ事だが、見る方向が異なる。
※ 【死神】は、死の門の手前に居る【愚者】と見なす事が出来る。【愚者】は、誕生の門を通過した【死神】と見なすことも出来る。

示唆 過去の放棄・身に付いて成長した物のみ持ち越せる・境界線・終わる時・始まる時
   表裏一体の生死・スパイラルアップ

 【運命】を螺旋状のものと考えた時、サイクル性を司るのが【運命の輪】であり、一過性を司るのが【死神】である。
 彼は、延々と回転しようとする時間の輪を切り断ち、新しい段階へと結び付ける。彼は、完全な終りでは無い。完全な終りを示唆するのは【審判】のカードである。
 彼が通りすぎた後は、新しい木の芽が芽吹く。彼が到来した後は、全てのものが新しくなるのである。
 彼は待つ事が無い。常に時間には正確であり、覆せない【タイムリミット】を持って、我々の所へやって来る。もし、我々がすべきことを成し終えれなければ、再び始めからやり直すことになる。彼が訪れても、彼が持ち去らない時は、全く同じ事を繰り返す苦痛が待っていたりする。
 彼の背後には、常に新しい運命がついてくる。
 彼を恐れていては、人は前進することが出来ない。停滞し、繰り返し、生きながらにして、自らの魂を殺してしまう。

示唆 一過性(その時限り)・新しいステージ・正確な時間・タイムリミットが近い・すべきことを終えているか、そうでないかが分かれ道になる・始めからやり直し・前進

 【死神】は、常に誤解されてきた。不吉な兆しとして現れ、運命を引き裂き、絶望に落とし入れる存在と思われてきた。確かに、彼の存在は【不吉】であるし、運命を引き裂きもし、出会えば絶望もする。しかしそれは【死神】の本当の目的では無く、一つに手段・過程に過ぎないことを理解しなければいけない。
 中世ヨーロッパで、ペストなどが流行った時、【死の舞踏】【死の勝利】と呼ばれ、死神は絵画にも描かれてきた。しかし、彼が時代の節目・時代の末期に訪れた後、新しい時代が訪れるのである。
 彼はメッサーなのである。病気の患部を切り取るメスのような存在である。
 彼には、彼の持ち場と役割があり、我々はそれを正当に評価しなくてはいけないのだろう。

 さて、人物カードとして見る場合、具体的にどんな性質をもって現れるだろう。
 彼(若しくは彼女)は、実に端的な言動をする。すっきりとして居て、その言動の後には何も蟠りが残されていないように見える。しかし、その端的さが、他人に強い衝撃を与えることも稀では無い。彼の知性には深みがあり、他人には理解し難い所がある。また彼の内部には強い情熱が隠されているが、これも他人には理解できないような代物であったりする。彼が一番嫌うのは【停滞】であり、彼が好むのは【変容】である。彼の変容は一瞬の出来事なので、他人がその変化に気が付くのは、彼が変わった暫く後であることが多い。

 もし彼を友人とするなら、彼の淡白さや、予想もしない言動に馴れる必要がある。馴れたなら、随分と興味深い友人と見なすことが出来るだろう。但し、前触れも無くふらっと居なくなる事もあるので、必ず携帯電話は持たせた方が良いだろう。
 恋人にするには、かなりの覚悟が必要な相手と言える。深い愛情を示す相手ではあるが、何事も突然なので、わけが分からないままに物事が進んでしまう可能性がある。別れもまた突然で、一度決断すれば覆すことは難しい。
 仕事関係で見るなら、仕事を的確にこなす、信頼できる上司・部下・同僚となる。しかし、発想が予想出来ないため、思いもしない突然の行動に悩まされることもあるだろう。その場合は、彼の意見を充分に聞き、筋が通っているのであれば、無闇に手口を出さずに好きにさせた方が良い。また、彼の言動が確実にタブーであれば、ストレートに却下する必要がある。彼に曖昧な指示は通らない。職場で問題が生じた場合は、彼に任せると、意外と早く片が付く。やはり辞める時は突然なので、要注意。
 健康。突然死タイプ。健康の良し悪しは余り気になら無いが、事故などの危険は多い。
 病気が起こる可能性が高いポイントは、主に足である。

 精神性や将来などの希望に論点を置く場合は、意識の変容や、問題からの脱却。新しい視野が開かれ、過去を払拭する程の変化に見まわれる。社会性など実質的な問題に論点を置く場合、問題の処理、新しいステージ、物事の収束、タイムリミットなどが示唆される。
 正位置の場合、良くも悪くも、今までの経過に応じて終りを迎えることをを意味し、逆位置の場合は、主に収束の後の新しい始まりを意味する。


解説 常葉 了

 死神のカードは、実に誤解が多い。単に【絶望的な終結】と考えられる事が多いが、わざわざ【絶望】を強調するほどのカードでは無い。現象的にショックは大きいだろうが、むしろ感情的にはスッキリする事の方が多いように思われる。
 また、再生のイメージから、極端に良い解釈をしてしまう場合もあるようだが、それも限度の問題である。
 死神のカードのテーマは、【死と再生】・【節目】・【タイムリミット】などであり、結局何が起こるかは、対象者のこれまでの経緯によって大きく異なる。
 有名なカードなだけに、解釈は慎重に行なうことが望まれる。