【]X】

名称 『デビル』 『THE DEVIL』 『悪魔』

主キーワード 欲望・執着・停滞・堕落・悪意・誘惑・傲慢
      不実・心霊・カルト・欺瞞・盲目・物質主義・唯物論

『私はかつて、天の頂きにあり、栄光の極みであった。全ての御使い達が、私の指揮の下にあり、あらゆる賞賛の的であった。さあ君達にも、栄光を手にする術を教えよう。私の前に膝を付きたまえ。信仰など無用。君達は、あの方より偉大になれるのだから。』


 ナンバー『]X』を割り当てられる【悪魔】のカードは、光の原理に対立する闇の原理。無視する事の出来ない【濃密な影の世界】。物質の世界で、権威と栄光を手に入れる為の魔術。欲望や執着、欺瞞や堕落等。排泄されたモノ達で構成される混沌とした世界。その中に秘められた、深い意味のある負極のエネルギーの象徴と言える。

 【悪魔】のカードは、象徴的に【法王】や【魔術師】のカードと対立している。【法王】のカードが【モラル】を意味するのに対し、【悪魔】のカードは【不道徳】を意味する。また、【魔術師】が【光の原理】を意味するのに対し、【悪魔】は【闇の原理】を意味する。
 カードを見比べてみよう。そこに類似性と対立性を見る事が出来る。
 まずは【悪魔】と【法王】のカード。【悪魔】のカードも【法王】のカードも、足下に二人の人間が控えている。この二人の人間は、それぞれ玉座に座っている人物から教えを受けている。【法王】が、神の国へと昇る為の【神の教え・モラル】を教えるのに対し、【悪魔】は、地獄へと下る為の【悪魔の教え・不道徳】を教えている。
 【神の教え・モラル】は、精神性を富ませるの事を推奨するのに対し、【悪魔の教え・不道徳】は、物質性を富ませる事を推奨する。
 【法王】は【X】のナンバーが与えられており、象徴的には頂点を上にした【五芒星】で描かれるのだが、【悪魔】のカードは頂点を下にした五芒星で描かれる。
 【五芒星】は、人間や小宇宙を象徴するシンボルだが、特に頂点を上にしたものを【精神優位】と呼び、頂点を下にしたものを【物質優位】と呼ぶ。
 また【法王】の足下で交差する【鍵】が、未来を切り開く為のモノであるのに対し、【悪魔】の足下から繋がれている鎖は、現在や過去に縛り付けるモノでもある。
 この二つのカードは、物質と精神を兼ね備える存在にとって、全く別々の目的性を持たせるカードなのである。
 今度は【悪魔】と【魔術師】のカードを見比べて見よう。
 【悪魔】も【魔術師】も、右手を天に掲げ、左手で地を指している。これは【ヘルメス・トリスメギストスのエメラルド碑文】に書かれている【天地一如】の原理を体現している様子だが、それによって【魔術師】は【光の原理】を象徴し、【悪魔】は【闇の原理】を象徴している。意志を示す【バトン(棒)】で天を指している【魔術師】と、同じく意志を示す【松明】で地を指している【悪魔】とでは、やはり指向性が異なっているのだ。

示唆 闇の原理・不道徳・悪魔の教え・物質優位・現在や過去に縛り付ける(惰性・停滞)

もう少し、カードを見ながら分析してみよう。
 【悪魔】のカードには、所謂【バフォメット】と呼ばれる典型的な悪魔の姿が描かれている。山羊の角を生やした半獣の顔と、蝙蝠のような羽根。下半身は毛むくじゃらな獣の姿で、三本の鍵爪を持つ足がある。
 半人半獣の姿は、人間の持つ文化的な能力が、獣的な精神に支配されている事を意味し、大概の場合、良い意味を持たない。野性的な獣(猿)から、文化的な人間に進化した我々にとっては、それは退化に他ならない姿である。自分自身の獣的な欲求に支配され、自分の持つ文化的な力を使い、見境無く、貪欲に快楽を貪るようになる。
 蝙蝠の羽根は、ある種の霊的な力を象徴するが、蝙蝠が夜の闇を羽ばたく生物であるように、この霊的な力も、闇で暗躍する力である。(天使の羽根は、主に日中に行動する鳥の羽根で描かれ、光の中で動く霊的な力を象徴する)

※ 【山羊】と【羊】
キリスト教では、イエス・キリストを【羊飼い】に例え、信徒を【羊】に例える事がある。【羊】は、遊牧を行う民にとって、とても重要な財産であり、神に捧げる犠牲としても重要なものであった。逆に【山羊】は牧草を荒らしたりする忌むべき動物とされる事が多い。キリスト教では、信徒に混じった異教徒を、【羊】の群れに混じった【山羊】に例える事もある。【山羊】は【悪魔】の象徴として使用される事も多い。

 示唆 野性的(獣的)な精神・欲求・快楽主義・心霊・カルト・黒い目的の魔術や霊力

 鎖で拘束されている二人の人物に注目して見よう。
 男女の姿で描かれ、どちらも小さな角が生えている。尻尾も生え、よく見ると指は5本では無く、2本になっている。動物の持つ、【ひずめ】の形に成りかかっているのだ。人間は未だ、理性と本能の両方を兼ね備えているが、【悪魔】のカードで描かれている人物達は、明らかに本能(獣性)の部分が際立ち、退化し始めている。
 【悪魔】が座る黒い台座から鎖が繋がれている。しかし、それ程強く縛られている様子では無い。その気にさえなれば、直ぐにでも首から取り外す事が出来るだろう。しかし、二人の男女にはそのつもりが無いように見える所か、かなりリラックスしているように見える。自分を拘束する鎖に気が付いていないのか、それとも気付いていながら、敢えて逃れようとしていないのか。
 【悪魔】のカードは、暗い色で描かれている。【物質の支配する夜】であり、何の手掛かりも無いままで歩むには、とても恐ろしい世界と言えるだろう。二人の男女は、それに対して【恐れ・恐怖】を抱いている。しかし少なくとも、彼らの首に掛かる鎖に繋がれていれば、その闇の中で彷徨う危険だけは無くなる。
 得てして人間は、現状が苦しく停滞していても、それを打開する為に行動する事を恐れ、現状に甘んじようとする傾向がある。【家庭内暴力】があっても、なかなか家を出て行こうとしない人が多い事をご存知だろうか? 体調が悪いのに病院へ行きたくないと考えるのもそうだし、冷え切った恋人関係なのに、別れを言い出せないで居るのも、【悪魔】のカードで表される状態である。
 【慣れ】とは恐ろしいもので、どんなに苦しい状況でも、次第に気にならなくなってしまうものだ。
 【悪魔】はこう囁く。
 【今が最悪では無い。むしろ最善である。逃れようとすれば深みに嵌り、より苦しむだけだ。ここに居れば、いずれ慣れる】

示唆 現状から変化する事への恐怖・恐怖を逃れる為に、現状に甘んじる
   現状に慣れ、進化を忘れる・問題の核が表面化する事を恐れ、覆い隠す

 【悪魔】は非常に狡猾で、人を苦しめる際には直接的・あからさまな手段は用いない。
 【悪魔は、天使の姿でやって来る】とは良く言ったもので、人にとって、あたかも最善を導くかのような振る舞いをする。欺瞞に満ちた甘い言葉は、人の理性では無く、野性的な部分に響くのだ。故に、このカードが出た時は【凶事】の兆しなのだが、当事者たちは自覚が無い事も稀では無い。

示唆 詐欺・自覚の無い不幸・甘い誘惑

 さて、【悪魔】のカードにも幾つかの美徳がある。
 一つは、物質面に関わる力。例えば、節度をわきまえるのであれば、仕事面や金銭面には良いカードと判断する事も可能だ。占星術では【磨羯宮(山羊座)】に照応し、頭脳明晰・思慮深く狡猾。堅実で用心深く、忍耐強い。意欲的で野心的。一般社会で地位を確立するには充分な資質を持っているカードと言える。勿論その反面、唯物論的な考えや、悪い意味で保守的な部分も兼ね備えている。社会生活に置いて、この【悪魔】の側面を完全に否定してしまうと、生きる術を失ってしまう事にも成り兼ねない。要はバランスの問題である。
 また【悪魔】のカードは、試練の意味合いもある。旧約聖書によると、悪魔の王【サタン】は【サタニエル】と言う天使であった。人々に試練を与える天使で、あまりにも仕事熱心な為、神に嫌われてしまう程である。
 【悪魔】のカードが与える試練は、誘惑と言う形で訪れる。現実的な側面から攻めても、結局一番の焦点となるのは心の部分で、道理をわきまえ、光が差し込むまで闇の中で耐えられるかが問われる。この試練を通過すると、物事を見極める【目】と、識別の力を得る事になる。

示唆 頭脳明晰・深慮・狡猾・堅実・用心深い・忍耐強い・意欲的・野心的・地位
   試練・見極める目・識別の力

 さて、人物カードとして見る場合、具体的にどんな性質をもって現れるだろう。
 彼(若しくは彼女)は、何事に関しても堅実で、用心深い。頭脳明晰で、野心的な一面も持つ。全てを成果で評価し、無形の財産には余り興味を示さない。あまり、人の心の機微に通じては居ないものの、しかし人心掌握の術には長けており、利益の為には雄弁になるかも知れない。彼は、【価値】に関する哲学を持っているだろう。資本主義の世界では、彼の哲学は有効かも知れない。ただ、彼の価値は、人の外に残るモノであり、人の内側に何も残さない事がある。友人関係も、恋人関係も、価値が伴わなければ、彼には価値の無いものと見なされるかも知れない。
 そんな彼に、貴方は心の価値を教えてあげる事が出来るだろうか。

 もし彼を友人とするなら、貴方は、自分が彼に相応しい人間かどうか、又、彼が自分に相応しい人間かどうかを問い直さなければならない。彼の価値と、自分の価値が吊り合うようであれば、お互いがお互いに利益をもたらす良き友人となれるだろう。彼には心の価値が足りていないかも知れない。貴方がそれを気付かせ、得る方法を教える事が出来るのであれば、尚素晴らしい。ただ注意はすべきである。彼の価値に飲み込まれ、カードの示す如く、首に鎖を繋がれる可能性もある。そして、それに気付いた時には、逃れ難い事になっているかも知れない。
 恋人にするには、覚悟が必要である。彼には魅力があるかも知れないが、それが貴方だけのモノになるとは限らない。【悪魔】のカードの性質が極端に出てしまえば、価値こそが彼の恋人だし、価値も彼の全てを占有してしまう事だろう。若しかしたら、貴方は彼にとって価値としか思われず、無闇に独占されてしまうかも知れない。ちょっとでも異性と仲の良い所を見せたら、しつこい非難が待ち受けているだろう。独占されたいと願うのであれば、この性質は願っても無い事かも知れないが、限度と言うものがある。貴方は彼に、無償の愛を教える事が出来るだろうか。
 仕事関係で見るなら、仕事を堅実にこなす有能な上司・部下・同僚となる。しかし、結果主義な所があり、成果を出せない者には痛烈な批判が待っているかもしれない。全体のバランスを考えると言うよりも、自分の野心の為に動く傾向があるので、周囲には良い影響を与えない場合も多い。部下や同僚であれば、賢い人物を身近に置く事によって、バランスを整える事も出来ようが、上司となると、ちょっと手に負えない所が出て来るだろう。仕事の手柄は自分のモノとし、責任は部下に押し付ける。
 健康。極めて真面目な生活を送るタイプと、極端にバランスを崩した生活を送るタイプの二つに分かれる。真面目な生活を送るのであれば、勿論健康面には問題は無い。しかし、バランスを崩すと、生活習慣病や、長期に渡る漠然とした体調不良に悩まされる。傾倒する性質も意味するので、アルコール中毒やタバコの依存症。ドラッグ等に手を染める危険もある。また、体調が悪くなっても、病院へ行こうとしない傾向があり、気が付いた時には手遅れになっている場合も多い。物質主義と言う割には、自分の体に対して注意を払わない傾向があるのも、【悪魔】のカードの特徴と言える。
 病気が起こる可能性が高いポイントは、主に膝である。

 精神性や将来などの希望に論点を置く場合は、精神の暗闇、誘惑と試練。自分と向き合うべき重要な時期を意味している。社会性など実質的な問題に論点を置く場合、詐欺や欺瞞。問題の停滞。現状の悪化等。精神性も絡んだ、逃れ難い状態を示唆する。
 正位置の場合、精神と現実が混沌と入り混じり、問題を悪化させて行く事を意味し、逆位置の場合は、迷いや困惑、停滞した問題からの脱出を意味する。