『]U』

名称 『ハングドマン』 『THE HANGED MAN』
『吊るし人』

主キーワード 困難・苦境・苦行・試練・忍耐・自己犠牲
         視野の反転・逆転の発想・柔軟性
         信仰による他力本願・償い・自己放棄
『私は、求めて、求める末に吊るされた。一切が水泡に帰したと思った時、ふと私は気が付いた。私は今、天を踏みしめ、地を仰ぎ見ている。何と、ここに至って始めて見出すものがあったとは・・・』

 ナンバー『]U』を割り当てられる【吊るし人】のカードは、表面的には、苦難を前面に押し出したようなものに思われがちである。事実、このカードは受難の兆しを意味するが、その受難は自己の成長に欠かせない試練であり、報われる苦労でもある。【吊るし人】に描かれる人物は、受刑者であると同時に、修行者でもある。敢えて自分の心身に苦難を与え、そこで得られる悟りを待っているのである。彼はイエス・キリストのように自分の身を生贄に捧げて、救いを体現し、死を持って再生を兆す人物でもある。
 また、逆さに吊るされることにより、全てを逆転して見る人物でもある。我々は、物事を大体一方向からしか見ていないが、それではその物事の全てを見て、知ることは出来ない。
 例えば、世界地図を逆さにして見てみよう。暫くの間は、それは単に逆さに見た世界地図にしか見えないが、ふとした切っ掛けに、自分の全く知らない、未知の大陸が描かれているように見える時がある。しかし、それも地球の本来の姿であり、我々が今まで気が付かなかった、地球のもう一つの正体なのである。

示唆 苦難・試練・受刑者・贖罪・修行・悟りの獲得・救いの兆し・生贄
   発想の転換・物事のひっくり返った側面・もう一つの正体(暴き)

 カードに描かれているのは、T字型の木から、逆さに吊り下げられている男性である。彼は、片方の足を木に縛られ、もう片方の足は十字に組み、両手を背後に組んでいる。顔に苦しんでいる表情は無いし、なかなかビシッとした態勢でもある。彼の頭には後光が射している。
 彼は、単に受刑者として刑を受けている男性では無い。確かに彼は罪人であり、その為に吊るされているのでもあるが、その他に、自己を犠牲にする事によって、求めるものがあるからこそ、吊るされたのでもある。彼の求めるものは、とても神聖な救いである。その為に、自分の心身から罪や穢れ、過去の固定概念や執着物を取り除かなければいけない。まずは不必要なものを取り除くのである。それは、枝を切り揃えられた木を見ることによっても分かる。
 しかし、その木には若葉が芽吹いている。不必要な物を取り除いたうちに、また新しい可能性が誕生するのが分かる。しかもそれは、不必要な枝を切り揃えた分、充分に栄養が行き渡り、活き活きとした可能性なのだ。
 またそれは、彼の足の組み方にも見て取れる。彼は足を4の字に組んでいる。この形は【木星】を象徴し、物事の誕生や成長、拡大を意味するものである。カードを見ての通り、4の形は逆さになっているが、それは苦難が発想の逆転となり、潜在的に【木星】の力が隠されていることを意味している。

示唆 不必要な物の廃棄(しかしそれは、当事者には一見、必要不可欠なものと思われる)
   自己犠牲(その犠牲は、それと等価の物と交換される)・潜在的な創造・芽吹き

 彼は、吊るされてから随分と時間が経っている。勿論、吊るされてから僅か数分の間で救いや悟りを得られる訳が無い。彼は長い間、苦しみを経験した上で、その苦しみの中に救いを見出したのである。彼の頭に後光が射していることでそれが分かる。彼は、悟りを得たのである。彼の手が背後で組まれているのは、彼が得た救いが彼の手で隠されているからである。

示唆 苦しみの中に存在する悟り・苦しみの中に隠された救い・長い苦難・忍耐

 彼の服装にも注目して見よう。青い上着は、四大の【水】を象徴するものでもある。彼は、苦難な現状に直面しても、柔軟に対応し、その環境を受け入れた上で問題に取り組む力を持っている。
 彼の赤いズボンは、四大の【火】を象徴するものでもある。現状の苦難にも挫けない、強い情熱を持ち、問題を克服する意志を兼ね備えている。
 彼の黄色い靴は、四大の【風】を象徴するものでもある。問題を足蹴に飛び越える、軽やかな発想を持っている。しかもその足は、今、天上を踏みしめているのである。
 彼は今、大地に埋もれた種のように、暗く寂しい環境にあるが、しかし、そこから発芽する潜在力として、【火】と【水】と【風】の力を秘めているのだ。
 それは、錬金術で言う【ソルウェ・コアグラ(溶かし、固めよ)】の原理に基づいている。彼は一度、自己を解体し、そして純粋な形で再生をきたそうとしているのである。

示唆 難儀に隠された意志・柔軟性・天を踏みしめるような軽やかな発想

 彼が教える事は、全て発想の転換から誕生するものである。
 苦しみの中に成功を見出し、犠牲の中に救いを見出す。一見、八方塞がりのように見えても、実際にはその苦難から脱出する術は残っているものである。
 このカードは、当人が置かれている苦難な環境に対して、全体を見渡す視野が失われている時などに出現する。現状に拘り、限られた方法論しか無いかのように考えてしまえば、いつまでも吊るされた苦しみに捕われるばかりで、無駄骨を折るだけなのである。

 さて、人物カードとして見る場合、具体的にどんな性質をもって現れるだろう。
 彼(若しくは彼女)は、自分の置かれている環境の中で、常に不利な場所に位置し、背負う必要の無い苦労を背負っていたりする。
 比較的物静かで、その苦難にじっと耐え、時に自分を犠牲にしてまで問題に貢献しようとすることがある。あまり目立つ存在では無いが、その内側には不屈の精神があり、強い意志を持っていたりもする。一人の時は憂鬱な表情をしていたり、人と接する時は気遣いに満ちた顔をしたりする。常に一生懸命で、時にいっぱいいっぱいであったり・・・
 全く違う印象を受ける性質もある。自分から好んで問題に頭を突っ込み、それでいて『大変だ、忙しい』と愚痴ったりする人物もある。
 頑張り過ぎる人物であることが多い。彼の背負う苦難は、確かに成果に結び付く物であるが、その方法論が柔軟性に欠いていれば、先に体力・精神力が尽きて、朽ち果ててしまう事も稀では無い。

 もし彼を友人とするなら、とても頼りになる友人となるだろう。どんな問題にも相談に乗ってくれるが、彼は当人よりもその問題に深く関わったりする危険がある。兎に角、頑張り過ぎるので、見ていて痛ましくなることもあるだろう。彼の不屈の精神に見習うことも多いだろうが、逆にこちらから手を差し伸べてたくもなって来る。彼と一緒に居ると、時に問題に巻き込まれたりもするので、注意が必要になる。
 恋人にするには、難儀な相手と言わざる得ない。彼の持つ苦労人の性質は、少なからず恋人の貴方にも影響を与え、共に苦労することが多くなるだろう。しかし、貴方が彼の力となれるのであれば、彼も安らぎを得ることが出来る。彼は比較的【憂鬱質】なので、彼の精神的な支えとなり、そして彼の無理な頑張りをセーブ出来るのであれば、望ましい恋愛関係を構築する事も可能である。
 仕事関係で見るなら、仕事を確実にこなす、信頼できる上司・部下・同僚となる。しかし、やはり自分一人で無茶をしがちで、抱えた問題が大きくなるまで他人に助けを求めないこともある。問題が山積みとなり、本当に八方塞になってしまい、【責任をとって辞す】と言い出すことも稀では無い。彼に悪意は無くとも、時に仕事を大きく停滞させる要因ともなるので、注意深く見守る必要があるだろう。
 健康。まずは、肉体疲労や精神疲労に注意が必要である。体調が悪くなっても、なお無理をする傾向もあるので、病を患った際に、手遅れになる確率も高い。
病気が起こる可能性が高いポイントは、主に足である。

 精神性や将来などの希望に論点を置く場合は、報われる苦難。現在直面している問題に対して免疫が出来る。精神的な成長が示唆される。社会性など実質的な問題に論点を置く場合、隠された解決策の存在や、無理な努力への諌め。発想の展開を促すことを示唆する。
 正位置の場合、苦難の現状に対する、救いの兆しを意味し、逆位置の場合は、固着した方法論が無駄骨に終わることを意味する。