『\』

名称 『ハーミット』 『THE HERMIT』 『隠者』

主キーワード 内なる知恵・内なる光・内向・孤独・
          隠遁・真理・慎重・老賢人・
          アドバイザー・先導者・探求・悟り
『迷いは、何も見えぬ暗闇から生じる。カンテラに灯を点ける賢者のみが、その闇を歩み得る杖を持つ。しかし、愚者はカンテラの所在を知らず、火の灯し方も知らない。最も身近な場所にあると言うのに』

 ナンバー『\』を割り当てられるこのカードは、暗闇に光を翳し、先導する神秘の案内者。内なる知恵に卓越した老賢人。外なる世界から身を隠し、内なる世界の諸問題と向き合う隠者である。
 その人物は、暗闇を識別する能力を持ち、時に応じて明かりを灯す術を知っている。暗闇とは、自分の見えない場所、知らない場所のことで、その暗闇は至る処に存在している。例えば、物理学を知らない人にとって、相対性理論は暗闇である。他人の心の中を覗けない以上、その人の心の中も暗闇である。勿論その暗闇は、自分の内側にも存在する。しかし、愚者はその暗闇の存在を識別できないので、闇の中を明かり無しに進み、様々な落とし穴に嵌まる。隠者は至る場所の暗闇を識別し、そして適宜明かりを灯していく。それは知ること、知ろうと試みることであり、それが最初の明かりとなり、暗闇を進む術を与えるのだ。
 真の賢者は、この世に暗闇が多いことを知っている。その為賢者は、自分がその暗闇に比べて、如何に自分が無知であるかも知っている。
 彼は、大きな暗闇の中にポツンと置き去りにされた自分を知っているので、暗闇を知らない愚者よりも、遥かに孤独で、寂しい存在だとも言えよう。

 示唆 暗闇・孤独・先導者・内なる知恵・内なる世界・識別・灯火・隠棲者・賢者

 カードに描かれているのは、暗闇の山脈の上で、カンテラと杖を手にしてたたずむ老賢者である。
 彼は孤独に険しい山脈を踏破し、その頂上に至った。その偉業を成し得たのは、ひとえに、彼が手に持つ杖とカンテラのおかげである。杖とは困難な道を進むのに役立つ道具であり、カンテラは暗闇を進むのに必要な道具である。これら二つの道具は、人間が外的世界と内的世界の両方を進むのに必要不可欠な道具である。
 杖が無ければ進むことは出来ないだろう、カンテラが無ければ暗闇に迷うだけである。
 杖は、彼が成長・発展する存在であることを示し、カンテラは迷い多き世界で進むべき道を照らすことが出来る存在であることを示すのだ。杖は前進の意志を示し、カンテラは無知の暗闇を照らす【明るい知恵】を示している

 示唆 成長・発展・道標・前進の意志・明るい知恵・人生の進歩

 『隠者』のカードは、様々な点で『愚者』と似通う面と対照的になる面がある。
 どちらも高みに居るカードであり、杖を手に持っている。これは成長と可能性を示す側面である。しかし、片や太陽に照らされた明るさがあり、片や暗闇にたたずむ。『愚者』は未熟で無知であるが故に暗闇の識別能力が無く、そこには可能性の明るさのみが前面に出ているが、『隠者』は知恵を持つが故に『暗闇』を識別し、その暗闇をしのぐ為、知恵の灯火を手に持つのだ。
 『賢さ』と『愚かさ』には、離れ得ない表裏性が存在している。その為、『愚者』のカードから賢さを読み取る時や、『隠者』のカードから無知を読み取る時もあることを覚えておきたい。
 『愚者』も『隠者』も一人身である。しかし『愚者』は自由による一人身、『隠者』は孤独と言う差がある。『隠者』は隠れたる者と呼ばれるだけあって、自ら人里を離れるのだが、それは修道のためである。 『立ち帰って己等を眺めよ』 彼は人里を離れることによって、そこに居た時の自分と、その周囲を改めて見つめ直すのである。事実彼は、山頂から下界を眺めている。物事は、近くに居て見えるものと、遠くに居て見えるものの二つがあり、同時に、近くに居ては見えないものと、遠くに居ては見えないものの二つがある。人が急に、一人になりたくなるのも、近くに居て見えないものを、改めて確認する為かも知れない。【虹の中に在る者には、それが見えない】
 同じ事が内的世界にも言える。自分のことを見つめる時、それは立ち帰って眺めないと見えない暗闇の部分が多い。人間の体は、火の灯らないカンテラで表現することが出来る。改めて内省することにより、人は自分の体に『明るい知恵』と言う火を灯すのである。

 示唆 無知と知恵・立ち帰って己等を眺めよ・遠くから見る・再確認・内省・自分を知る・修道

 『隠者』のカードは、『賢さ』や『知恵』を意味するが、それらはこれまで出てきた『賢さ』『知恵』とは、また違った側面である。知識・情報としての知恵は『魔術師』に代表され、直感知的な知恵は『女教皇』に代表される。しかし『隠者』では、『真理』と呼ばれる知恵が代表されている。
 『魔術師』の知恵は【風】の知恵であり、『女教皇』の知恵は【水】の知恵となる。『隠者』の知恵は【火】の知恵であり、明るい知恵なのだ。知識や直感知の前提となる物事の理(ことわり)を、経験・学識・直感の全てを通して理解する。
 【真理】とは、時間や空間・次元によっての制限を受けず、また変質も起こらない。だから、人間世界の俗な出来事についても、神的世界に関することについても、全く変わりなく理解することが出来るのだ。あらゆる場所に通用する知恵である。
 彼は何故【真理】を手にするに至ったのだろうか? それは彼が、今まで経験してきた全ての過去を背負い、且つ向き合ってきたからである。そこには、【真理】が常に適用されていた事に彼は気が付いたのだ。その為、彼はあらゆる事に注意を傾け、決して見逃すことが無い。全てが全てに関わりを持っているのを知っているため、無用・無意味な物は無いと考える。その為彼は、慎重であり、用心深く、思慮深く、そして何より探求心を備えている。【真理】を獲得するには、求めるのではなく、気が付く事が大切なのである。

 示唆 真理・【火】の知恵・無制限の知恵・過去の集積・慎重・用心・思慮・探求心・気付き・全てと向きあう姿勢・温故知新(古きを知り、新しきを知る)

 占断上での【隠者】は、自己の内面に光を当てる自己内省と共に、外部の相談者導き手をも意味している。その場合、彼が手に持つカンテラは、知恵の在り処を示す目印でもある。【この光を見出すものは、ここに来なさい。貴方に知恵を与えよう】
 また先導者の持つかがり火でもある。【迷えるものは、この光を辿りなさい】
 【隠者】は暗闇の中の光を意味し、闇の中の光は希望と助けを意味している。
 しかし、この光を探すだけでも、意識しない人には難しいことが多い。何故なら光は、闇の中にあって識別が可能となり、その為には、自分が闇の中に居ることを自覚しなければ発見出来ないからだ。
 外なる賢者は見つけにくいが、内なる賢者も見つけにくい。
 問題に直面した時、自分にとって最良の答えを持つものは、少なからず自分自身であることが多い。最も身近なだけに、最も見つけにくい。【灯台下暗し】とは、この事だろう。

 示唆 相談者・先導者・かがり火・目印・内なる賢者・光の識別。灯台下暗し

 さて、人物カードとして見る場合、具体的にどんな性質をもって現れるだろう。
 穏やかな気質を持ち、何事にも動じず、一つ一つの事柄にじっくりと向かい合い、賢い判断と処理を行う。正に賢者の風格を持つ。又は、人付き合いを苦手とし、内向的で、本ばかりを読んでいる人として現れる可能性もある。時に、全く普通の人と変わらない様に見えて、実は様々な知恵を持つ【近所の知恵袋】的な存在として現れたりもする。
 【隠者】はその名前の通り、人の居る場所から隠れて存在することが多い。それは実際に生活パターンがそうである場合もあるし、知恵のみが隠される場合もある。
 【隠者】タイプの人物を見つけるのは、なかなか難しいことが多いのだ。

 もし彼を友人とするなら、心強い相談者となってくれるだろう。その相談の範囲は広く、様々な面で知恵を貸してくれる。しかし、行動的な協力はあまりしてくれない。行動はあくまでも自分の力で、と教えられるだろう。友人となったとしても、あまり親密になれない可能性が多い。彼は、他人と自分の間に、必ず一線を置いている。この一線を越える事が出来たなら、それはかなり凄いことである。無理に突破すると、それ以降一切近寄ることを許してくれないだろう。
 彼は元々孤独な人間である。それを包み込める力を持った人物なら、彼との深いパートナーシップを築くことが出来るだろう。
 インドア派であることが多いので、外に連れ出すのが難しい(^^;
 恋人にするのは難しい。【女教皇】では【永遠の片思いの相手】と表現したが、それに近いものがある。【隠者】は修道僧と表現される場合があり、やはり恋愛には程遠い人物なのだ。もし恋人になることが出来たとすれば、かなり貴重な体験だと言える。彼の心の中を覗くことが出来たとすれば、彼の考えていることが余りにも深く広すぎることに驚くだろう。そして、その深く広い場所に、ぽつんと残された、孤独な彼を見つけることが出来るはずだ。
 仕事関係で見るなら、賢明な上司、賢明な部下。様々なトラブルに、柔軟且つ最良の手段で対応する。行動的ではないので、後方支援型の働き手だ。営業などには向いていない。出世欲が無いため、上司としての立場に立つことは少なく、補佐的立場に就くことが多い。あまり目立たない為、居なくなった時に始めて、その人物の重要性に気が付くことも多い。職業としては、教える、アドバイスする仕事が良いだろう。コンサルティング業やカウンセラー、教師、占い師など。出家と言う意味も含まれるので、僧侶にも向いている。
 健康。肉体的に弱い方であることが多い。大きな病気をするタイプではないが、虚弱体質なので、感染症にかかりやすい。少しは体を動かして、体力を付けた方が良いだろう。
 腿を中心とした、下半身に障害を持つ可能性がある。
 また、女性の場合は不妊、男性の場合は不毛の危険も持つ。

 【隠者】のカードは、大アルカナの中でも読み難い部類に入るだろう。これまで書いてきた事は、【隠者】の性質の極一部であり、もっと多くの示唆が込められている。
 今後、折りに触れて様々な角度からアプローチしていこう。

 精神性や将来などの希望に論点を置く場合は、問題を解決に導く光、精神的成長、意識の拡大、再認識、相談者の出現を示唆する。社会性など実質的な問題に論点を置く場合、一人になりたい時期、深慮・慎重を要する時期、過去から学び未来に活かす必要性のある時期を示唆する。
 正位置の場合、カンテラに光を灯すことにより得られる【賢明の美徳】を意味し、逆位置の場合は、暗闇で迷い、愚かな判断を下してしまうような悪徳を強める。