『X』

名称  『THE HIEROPHANT』  『法王』
主キーワード 教師・聖職者・翻訳者・解釈者・審神・しきたり
          習慣・常識・法・道徳・倫理・保守・組織・権威
          擁護力・慈悲・慈善・啓発・祝福
『耳あるものは聞きなさい。ここに一つの古き書物がある。読みなさい。それは新しくなる。学びなさい。そこには未来への智恵が書かれている。耳あるものは聞きなさい。ここに一人の老人がいる。彼の忠告を聞きなさい。貴方は明日を生きる術を知る。彼の話を聞きなさい。そこには先人の培った智恵が生きている。さあ、貴方の耳を傾けなさい。』

 ナンバーXを配当されるこのカードは、大きな智恵を持つ教師、神と人間の間を仲介する聖職者、女教皇の持つ神秘の書物を、読み解ける文字へと替える翻訳者、その教えを無学の者にも分かる形へとする解釈者、そして民衆に神の楽園を説く法王である。
 彼は、慈悲深く、善良で、全てを慈善への道に傾けている。彼の智恵は古くから伝統的に受け継がれたものであり、その智恵を民衆が分かるように教え伝える役目を背負っている。彼は老賢である。しかしそれは実際の年齢を指しているのではなく、彼の持つ智恵が、先人が長い年月を費やし培った智恵であることを指している。彼はその智恵を駆使して、民衆を世俗の悩みから救い出すために、自分の人生とエネルギーの全てを傾けている。

示唆 慈悲・慈善活動・伝道者伝統的智恵・古い智恵・救済・福音・教え・温故知新

 彼は、神に仕える聖職者である。これは先に出たナンバー『U』の『女教皇』と似ているが、彼女より顕現世界・大地・人間に根ざしている。『法王』自身も預言者の性質を持っているが、どちらかと言うと『女教皇』が授かった預言を解釈し、民衆に教え伝える役目の方が強い。所謂『審神』(さにわ)であると言えよう。
 彼は、その智恵(教え)を効率良く民衆へ伝える為に、組織性を利用する。彼一人の口だけでは、世界中の人々に教えを広めることは無理だからである。各宗教が、それぞれに教会や寺院・神殿を持ち、それぞれに司祭を置くのはその為である。それぞれの教会を司る司祭はそれより上位に聖職者から教えを受け、その教えを授ける頂点に法王が君臨する。彼は、実在の世界の支配権を行使する『皇帝』とは違った局面の、支配性と権威を持っているのだ。

示唆 宗教・組織性・グループ・聖職者・位階(階級)制度・精神的地位(支配性・権威)

 彼の教えには、救いに至るための道徳規範が含められている。それは道徳・倫理・モラルという名で知られるもので、伝統的には正しい常識(良識)が伝えられる。しかし彼は、道徳・倫理・モラル・常識などが、民衆には分かりづらく、且つ不明瞭なものと捉えられているのを知っているし、さらには間違った常識がまかり通っていることも知っている。その為に、道徳規範が明瞭な形を伴った『法』を用いる。我々の知る法律とは『法』の顕現体系なのだ。
 国政的な見地から言えば、三権分立の『立法』にあたる。(立法=『法王』 司法=『正義』 行政=『皇帝』)
 『法』は偏った見地から見ると、堅苦しく束縛する体勢に見えるが、実際は『法』の精神を理解することで、本当の道徳・倫理・モラルを得ることが出来るものである。

示唆 道徳規範・倫理・モラル・常識・法・法律や憲法・立法(国会)・ルール・規則の束縛

 彼の智恵は、『女教皇』が神から預言し、その言葉を受け取った、つまり神の智恵である。その内容は深く広大であり、そのまま民衆に伝えたとしても分かるわけがない。彼はその智恵を噛み砕き、分かる形を分かる量にして伝えていくことが出来る。女教皇は天に属して神に仕え、法王は地に属して神に仕えている。女教皇は神秘的存在だが、法王は人間である。何故なら人間の体を受肉し、人間の視野を知らない限り、人間に分かるように教える事が出来ないからである。その最たる例は各宗教の開祖。例えばキリストの受肉などの理由もその一つである。
 彼は人間では有るが、その背後に神を背負い、代行者・代弁者としての任務を負っているのだ。
 さて、彼の性質は正に教師としての性質でもある。既存の智恵・知識を、未だ無知な学生達に教えるために噛み砕き、分かるように伝える。彼は智恵を解釈する者なのだ。

示唆 人間・使者・代行者・代弁者・解釈者・教師目線を合わせた教育

 彼は赤い司祭服を纏い、灰色の玉座に座っている。頭には三重の冠を被り、左手には三本の横棒が入った錫(三重十字)を握っている。更に司祭服の中央に垂れる帯にも三つの十字。この三重は、三位一体を意味する構図で、カトリック教会の『父』と『子』と『聖霊』に対応している。例えばそれは三つの階層でもある。即ち霊性の階層・精神性の階層・物質性の階層の三つである。これらは一体であるが、特に法王は灰色の玉座に座っている所から、物質性(子)の階層に属していることが分かる。この三階層はある意味、組織性も象徴している。
 彼の目の前には、二人の聖職者・枢機卿が居る。薔薇の司祭服を着ている聖職者は、神への情熱と教えの実践を成し、ユリの司祭服を着ている聖職者は神への献身と信仰を成している。道は多少違えども、彼らは法王の下に辿りつき、教えを受ける事が出来た。法王は右手を天にかざし、神の教えを説いている。法王の足元にある交わった鍵にも注目しよう。それは神の楽園へと至る門の一つを開けることが出来る鍵である。聖職者達は法王から教えを受け、鍵の一つを手にし、自分たちの教区に帰り、そこの信徒に法王の教えを説くのである。
 数字の5は、四つのエレメント(四大)である火・水・風・土に霊性の加わったもので、伝統的に五芒星の形で象徴される。これは小宇宙の象徴であり、人間の象徴でもある。法王が地に根ざした存在であることが分かる。

示唆 (あらゆる意味の)三位一体・道は違えどもゴールは同じ・情熱・実践・献身・信仰・目的地への鍵祝福・人間足る導師

 さて彼はどんな人だろう? 先ずかなり年配の男性。大体は教師・聖職者・祖父など。智恵があり、教える立場にあるもの。穏やかで、慈悲深く、寛大。古めかしく保守的だが、その智恵は豊か。擁護力があり、許しの業を得ている。あまり活動的では無く、むしろ活動するものを後ろで支える役割をしている。彼は過去の英雄でもある。
 もし彼の性質が悪く現れるのなら、古い習慣に拘り、迷信深い。保守的過ぎて時代の変化を受け入れない。頑固ジジイ。過った常識を持ち、偏見的。逆に転じると、伝統から離れすぎて、過去の蓄積を無駄にするもの。基盤を疎かにするもの。斬新・前衛・奇抜過ぎ。

 人間関係を組むと非常に頼りになる人物、心の支えとなる人物である。友人として身近に有り、多くの生きた智恵を共有してくれる。若干説教臭いところがあったり、部分的に偏見があったりすることもある。年上の友人と言う場合もあるし、年齢が近くとも精神年齢がかなり行っていると思われる友人だったりもする。更には、伝統的的な芸能や武道・宗教哲学に携わっている場合も多い。比較的組織性を好むが、その組織において顧問的な立場を持ったりすることが多い。
 もし恋人のシンボルカードとして見る場合は、やはり精神的に支えとなってくれるパートナーを指し示している。その関係は、若干形式に拘ったものになりがちだが、その分安定しており、結婚等に結びつき易い。またこのカードの場合、お見合い結婚や、結納などの古い形式に従った婚姻関係も示唆する。若干面白みには欠ける恋愛かも知れない。
 尚、特記するものとしては、『愚者』のシンボルカードの人物には、ちょっと付き合い難い人物かもしれない。(相性が悪いわけではない)
 仕事関係。寛容で智恵に溢れた上司、先輩。ルールや規則に厳しい所もあるが、部下や後輩の努力を常に目に止め、激励してくれる。ミスがあっても寛容に許してくれ、同じミスをしない為の智恵を与えてくれる。教育的な能力に恵まれるので、出世は遅いものの、部下・後輩・上司に信頼が厚い。『やり手』と言うよりは『熟練』のタイプである。部下として見る場合、あまり有能・行動的には見えないが、職場環境において重要な役割を果たしている場合が多いので、そのままにして置くのが賢明である。賢い使い方は、他のスタッフに指示し難い事柄を、彼を介して伝える等である。
 『法王』のカードは地位や権威を意味するが、それは精神性に依存する部分が多いので、社会的な出世などはそれ程期待できない。地道な行動をするタイプなので、能力は大器晩成型、出世をする場合でも結構遅いだろう。
 金銭。勤めを重視するので、収入は安定している。それ以前として、彼は環境がお金を生むタイプである。つまりお金持ちの家である可能性が高い。また、周囲からの援助・寄付が行われる場合も多いので、生活に困ることは殆ど無い。金銭は、自分の為より周囲の為に使われる場合が多い。その為、お金は減りはしないが増えもしないのが大半である。
 ギャンブルや投資と言うタイプではない。投資の場合は金銭的な配当を求めないで行う場合がある。(慈善寄付など)
 健康。肉体的も精神的にも安定している。もし心配があるのだとすれば、年寄りの老衰だろう。しかし、それも穏やかに受け入れている。
病気や怪我を負うよりは、むしろ医師や医療を意味することが多い。病気にかかった人物の占断で『法王』が出た場合は、有能な医師や高度な医療技術によって回復する兆しであると読めるだろう。勿論逆位置の場合は、現在掛り付けの病院の他を進めた方が良い。

 精神性や将来への希望を論点に置くのであれば、忍耐強く、着実な歩みを示し、精神的な成長や啓示を意味する良いカードと解釈できる。心の支え、自分の道徳規範となる信仰を見つける可能性も示唆するが、このカードはあまり出家を意味しないので注意。(出家はどちらかと言うと、『\』の『隠者』又は『]U』の『吊るし人』の方が強い)
 正位置の解釈は、このカードの美徳の面が中心に現れる。逆位置の場合は、かなり注意を必要とする悪徳が現れる。中世ローマ教会の堕落(免罪符などについて)や、偏見による差別などに学ぶと良いだろう。