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名称 『ムーン』 『THE MOON』 『月』

主キーワード 不安・迷い・悩み・不吉・情緒・潮流・幻想・幻視・予兆・予感・母・魔女・魔法

詩句 【魔女】
『青白い月夜の晩に、母親は、我が子の為に子守唄を歌う。可愛い寝顔を見て微笑み、その頬にそっと口付けをする。夢見る子を抱き、清水を湛えた大釜に近付くと、静かにその子を投ずる。火をくべて、釜を煮立たせると、三日三晩それを見つめる。我が子の育ち行く姿を思い浮かべ、優しくそっと微笑む』


 ナンバー『][』を割り当てられる【月】のカードは、夜の化身たる【魔女】の暗示。月夜の晩に感じる実体の無い不安や、不吉な感覚。月光が織り成す幻想の世界。全てが明るみの中にある昼間とは異なり、全てが隠された闇と、朧な月の光との間に生まれる曖昧な形象。夜明けが近付くと共に湧き上がる希望と期待感、それに反する大きな不安の象徴。
 【月】のカードは、22枚の大アルカナの過程において、最後の難関であり、最後の試練でもある。

 【月】のカードを見てみると、その中央には、美しい横顔が映し出された、黄色い満月が描かれている。
 円周を取り囲むように光の線が描かれ、夜の闇を照らす月の輝きが表現されている。
 もう少し、描かれた月の様子を注意深く見てみよう。単なる満月かと思われたが、微妙な弧を描くラインが追加されており、その中に三日月が隠されている事にも気が付く。

 【月】の【月】たる所以は、その満ち欠けに有る。
 恒常普遍の光である太陽とは異なり、日に日にその姿を変え、移ろい行く姿。その変化と移ろいが、月の本質であると言えるだろう。
 【月】は、一瞬足りとも、その本当の姿を晒す事は無い。
 事実【月】の光は、本人のモノでは無く、太陽の光を反射したモノに過ぎない。本当の月に姿は、冷め切った岩の塊とも言える。しかし、太陽の光を受ける事で、月は活き活きとした魔力を得て、変幻自在の営みを見せる。

 太陽の光と、月の光の違いは何か。
 ここで、太陽のカードも見てみよう。
 【太陽】も同じく【円】で描かれ、その円周には光を意味する線が加わっている。
 しかし、【月】のカードとは異なり、直線だけでは無く、波線が加わっている事に気が付くだろうか。
 直線は【光(光線)】を意味し、波線は【光に含まれる熱(熱線)】を意味する。
 【月】は、太陽の光を反射し輝く事は出来るが、太陽とは異なり、熱をもたらす事が出来ない。【光】と【熱】は、地上に生きる全ての生命に必要な【エネルギー】である。しかし【月】には、その生命を助ける力は無いのだ。
 【月】のカードを見ると、月の輝きに反し、その背景が薄暗いままである事が分かる。
 【月】が、如何に【太陽】を模倣しようとも、【太陽】が担う仕事を変わる事は出来ない。

キーワード 変化・流転・移ろい・幻・反射・模倣・偽物

 とは言え、【月】には【月】の魅力もある。
 暗闇の中に浮かぶ月は美しい。
 その月光の織り成す世界観は、人を幻想の世界に誘い、普段見落としがちな、貴重なイマジネーションを与えてくれる。
 太陽は、余りにも明る過ぎる。
 月の控え目な光が好きだと言う人も居るだろう。
 事実、芸術の世界では、太陽よりも月の方が愛され、多くの作品に登場して来た。
 【夜の夢】を与えるのは月の役割であり、その為、月はいつの時代でも詩人達の母であった。

キーワード イマジネーション・想像力・夢・詩人・芸術・ファンタジー

 【月】は常に、その半分の姿しか見せる事は無い。【月】のカードに横顔が描かれているのもその為である。
 事実、地球の周囲を巡る月は、地球に対して、常に一定の面しか見せる事は無い。
 ご存知かと思うが、日本人が【ウサギ】を見出し、美しいと愛でる面の裏側は、多くのクレーターが存在する、荒れ果てた大地となっている。
 月は、その醜い反面を隠している。
 ギリシア神話に【ヘカテ】と言う月の女神が登場するが、昼は美しい女性の姿をしており、夜には醜い老婆姿の魔女になると言われている。(昼夜共に、老婆の姿であると言う説もある)
 月は【二つの顔】を持つ。片や美しく優しい母としての顔。片や醜く恐ろしい魔女としての顔。
 月の見せる美しい姿に、完全に心を許してはならない。
 夜の闇の中、一際強く輝く光としての月。その美しい月を追いかけてばかりでは、夜明けは訪れない。月は、太陽よりも素早く移動する。月を追いかけては、真実を照らし出し、生命力を与える太陽から遠ざかるばかりなのだ。
 月の魔女は、幼い我が子や、美しく若い青年を捉えて離そうとしない。
 タロットの旅の中で、ここで足止めされる可能性が大いに存在する。

キーワード 裏の顔・二つの顔・隠された事実・ゴールから遠ざかる・足止め

 さて次は、少し視線を落とし、三つの生物について思いを巡らせて見よう。
 カード底面には池がある。
 その池から、ザリガニが這い上がろうとしている。
 ザリガニが這い上がろうとしている場所からは、一本の道が伸び、その道を挟むようにして、二匹の動物が月に向かって吠えている。

 まずは、ザリガニに注目して見よう。
 伝統的に、水中の外骨格生物は【月】の象徴とされている。
 心理学的に見れば、【自我】の部分的化身とも言えるだろう。
 池で象徴されるのは、心の領域。
 池の底を【潜在意識】や【深層心理】と考え、その表面(水面)を【顕在意識】や【表層心理】と考える。
 ザリガニは、池の深い部分に住み、今、地表に這い上がろうとして、水面に波紋を広げている。
 つまり、自我の部分的化身が、【深層心理】から這い上がり、心の表面である【表層心理】を乱す様子であると言えるだろう。
 普段の安定した生活の中で、突如として不安が込み上げて来るのは、こんな情景だ。
 得体の知れない感情が、自分の心の底から這い上がろうとして居る。
 人は、そこに不安を覚え、不吉な感覚を察知する。

 自我の部分的化身である【ザリガニ】は、その池から離れ、一人歩きをし始める。
 自分のコントロール出来ない部分が、自分の意思とは別に、勝手に物事を行ってしまうのは、このような情景だ。
 その【ザリガニ】は、地上に這い上がると、月を目指して一本道を進む。
 自分から勝手に一人歩きをし始めた、この心の一部分を捕らえる為、人は必死にその後を追いかけるだろう。
 その後はどうなるのだろうか?

 【月】は、【太陽】を模倣した幻。実在性の無い、不安や不吉の象徴である。
 【ザリガニ】も、心の一部分とは言え、月の光によって生じた【影】に過ぎない。
 【月】を目指す【ザリガニ】を追いかけるのは、あまり良い事では無いのでは無いだろうか?

 確かにそうだろう。
 しかし、これも道である。
 その道を極めて、到達する場所も存在する。
 徹底的に悩み尽くした時に見える、真実の光も存在する。

 カード中央を登る一本道は、二つの塔を通過している。
 この塔は、【13番 死神】の遠景に描かれた【死と再生の門】だ。
 その門の先は、太陽の輝く世界に通じている。

 人は、不安に対して不安を抱く事がある。
 【月】を目指す【ザリガニ】を追う事にためらい、不安を抱く事もあるだろうが、ここは腹を据えるべき時だと言えるだろう。
 追わず、道を引き返すのは、ゴール直前にして、撤退してしまう事に他ならない。
 これこそが、【月】のカードが暗示する、最後の【罠】なのである。

 さて次は、二匹の獣について考えて見よう。
 そもそも、この二匹は、何の動物だろうか?
 一般的解釈として、左が犬、右が狼とされている。
 双方とも【犬科】の生き物であり、いずれも【月】に従う動物である。
 右側の生き物は、見ようによっては、キツネにも見えなくは無い。
 それであっても、やはり【犬科】である。
 キツネに【化かす】力があると考えれば、月のカードに描かれていても可笑しくは無いだろう。
 【月】に向かって吠える【犬科】の動物達は、概ね【不安・不吉】の象徴とされている。
 一本道を進むモノ達にとって、両脇に獣が居る場所を通過するのは、実に恐ろしい事だろう。ここで引き返してしまうかも知れない。

 この二匹も、ある意味では【門】を形成している。
 心得知らずのモノ達を追い返す番人。
 正に、神殿の前に存在する【狛犬】のような存在なのである。

キーワード 自我・無意識の一人歩き・実在性の無い不安・不吉な予感
        無意味な撤退・罠・悩みの底の光

 さて、【月】のカードを見て、他に気になる所があると言えば、空中に浮かんでいる15個の光に雫だろうか。
 これは【月の魔力】が凝結した【マナ】と解釈される場合もあるし、不吉な光としての【鬼火】と解釈される場合もある。
 前者の場合、魔法や魔術に関わる。
 後者の場合は、心霊(スピリチュアル)に関わる。
 いずれにせよ、【月】が象徴する【ミステリアス(神秘的)】な領域の力を暗示している。
 古き時代より、水晶や鏡と言った【月の象徴物】に月光をさらし、その魔力を高めるのは、【月】が魔法の世界の象徴であり、魔力の源であると考えられたからだろう。

キーワード 魔法・魔術・オカルト・カルト・神秘・スピリチュアル

 実在の世界に顕在する全ての物事を司るのは、【太陽】の役割である。
 逆に、実在の世界の裏側、そこに潜在する全ての物事を司るのは【月】の役割と言える。
 目に見えぬ【心】の問題を初めとし、心霊的・魔術的な領分も、【月】の女神が支配する。
 それは目に見えぬからこそ、見落としがちであり、重要。同時に、目に見えぬからこそ、危険な側面も存在する。実在の世界に生きるモノ、また生きたモノにとって、その世界は【未知】であり、多くの誘惑や欺瞞に満ちた恐ろしい場所でもあると言えるだろう。
 しかし、これも我々に内在する世界であり、気が付かないだけで、実際に我々の外側を取り巻く世界である事を忘れてはならない。
 【月の光】が照らす暗い夜道を賢明に進むには、その世界への正当な評価と、識別の徳、前進する意志、幻惑の中で道を見失わない【目】が必要なのである。

人間関係 【月】のカードは、基本的に【不安】や【迷い】のカード。全般的に、外的な事象への影響は少なく、心理・精神面等、内的な場所に影響を与える傾向が強い。人間関係の場合、外的な事実としての【原因】が無い、若しくは少ないにも関わらず、他者に対する不信感が強まり、コミュニケーションに障害を与える場合がある。自分が向かい合っている相手が、自分に悪意を持っている、または嫌っている等と思ってしまう傾向にあり、ギクシャクとした関係になったり、【場】への影響がある場合は、その【場】の属する全ての人間の間で、疑心暗鬼が横行してしまう場合がある。【月】は、天体(星)と見ても、移動速度が速い為、【月】の影響も比較的素早く移動し、一時的な場合がある為、それを乗り越えれば概ね解決する。しかし、その実在しない不安の為に、短期間の間で【現実的問題】を引き起こしてしまうと、後を引く問題となってしまうので、注意が必要となる。対策として、この時期はコミュニケーションに不安があっても、グッと耐える事。若しくは、コミュニケーションそのものを、一時的に控えるのが良い。

恋愛関係 現在、想い人が居ない場合は、単に【恋愛運】が低調な時期と判断し、夜が明けるのを待つのが良い。この時期に生じる【出会い】や【恋愛】は、時に【幻想】である場合があり、【恋に恋する】と言った難しい状況になり兼ねない。思い込みが増長すると、偏愛化し、ストーカー等を生む場合がある。片想い・両想いの場合は、人間関係で解説した事に準じる。但し、人間関係コミュニケーションとは異なり、心理的・精神的な影響が強い為、落ち込み度が大きく、鬱化する危険性もある。対策としては、やはり【月】の影響力が薄くなるまでコミュニケーションを控えるか、強い意志と忍耐によって乗り越えるのが良い。
【月】は、誘惑者としての気質もある為、浮気・不倫の兆しとして読む事も可能。
しかも、遊び心からスタートしたモノも、【月の魔力】に落とされ、本気になってしまう場合がある。しかし【幻】を愛するようなモノなので、大抵の場合、その恋愛も上手く行かない。

仕事 個人として見る場合、仕事と言う【日常的営み】に対する倦怠感が生じ、不満感が出てくる傾向にある。【月】が【非日常】を意味する所から、仕事へのエネルギーが減じ、他の放蕩的な事にエネルギーを注いでしまう事がある。【場】として見る場合、不信感が蔓延し、【場】としての仕事がスムーズに行かない場合が出てくる。特に【性質の悪い噂】等が蔓延する傾向にあるので、早急に事実を明確にし、芽を摘むのが良い。
交渉事、計画事は避けるのが無難。所謂、占星術で言う【ボイド】と同じ影響を与えるので、判断に血迷う場合がある。

健康 【月】は、どちらかと言えば【不健康・不健全】なカードに分類出来る。しかし、直接肉体に対して影響を与えるような疾病や怪我になる事は殆ど無く、漠然とした【体調不良】として出てくる場合が多い。主に【心理的な要因からの影響】【血液・リンパ液等、人体を構成する液体からの影響】【不健全な生活サイクルからの影響】の三つが考えられる。
【月】の影響下にある場合、【お酒】【薬】等は、あまり良い影響を与えない場合が多い。【お酒】を飲むと、依存性が強くなり、立ち直るのに苦労する。病院から処方された薬や、市販されている薬を使用する事が悪いとは言わないが、薬によって治ると考えるよりも、健全な生活スタイルを取り戻す事で回復する事を目指した方が良い。
占い師が口出しする領分では無いが、【鬱】の場合、処方される【抗鬱剤】も出来るだけ避けた方が良い。
障害が起こり易い場所は、生殖器・排泄器系統。

 精神性や将来などの希望に論点を置く場合は、精神性の疲労、心理的な落ち込み、実在性の無い不安や迷い、思い込み等を意味し、メンタルの部分が、現実の行動に支障を来たす危険性を暗示する。心理における【罠】であるが、ゴールが間近である兆しでもある。社会性など実質的な問題に論点を置く場合、コミュニケーション上の障害、【計画・決断・実行】の不安定性、達成直前でのトラブル等を示唆する。
 正位置の場合、【月の魔力】に捉われ、自分の心が思うに任せない状態になる事を示唆し、それに伴う現実への影響に焦点があたる。逆位置の場合は、【月】が薄れ、夜明けが近付いている事を示唆し、最後の試練としての【心理的罠】に立ち向かい、乗り越える事に焦点が当たる。