のきばしら


鎌倉時代、備前長船助平の打った一振りの業物が、天に奉納するため敢えて銘も刻まれず、一侍の腰に収まった。その侍の手柄により、件の刀は主君から「のきばしら」の銘を賜る。茎(なかご)に「軒」の一字を忍ばせ、その後時空を越え昭和に至るまで、その刀と周りの人々(犬も含む)の数奇な運命が七編綴られている。

「運命の剣 のきばしら」と言う小説の概要である。7人の作家がリレー形式で書き綴る短編集で、それぞれの作家が良い味を出している。2002年頃、この小説を読んだ時は「なるほど、面白いな。」と言う感想で終わっていた。

私はあまり時代小説は読まないが、痛快時代劇風ではなく、作家の腕がその時代背景をもしっかり描ききっているものは読む。本屋の棚で見かけ、宮部みゆきの名があったので、何となく買ってしまった。そう、私は彼女の短編時代物は好きである。

 



2012年4月に、私はヤフーオークションで一本のバンブーロッドを競った。色んな角度から撮影された写真を見ると、ご覧のようにリールシートに輪染みがあるが、きれいで丁寧な作りであった。しかし、致命的な欠点がある。製作者不明、無銘でしかも番手が分からないのである。出品者がラインを通して振ったところ、3番程度と思われる、と記されていた。そのため、ジャンク扱いで非常に安いスタート価格が設定されていた。四人が入札したが、私が粘って落札した。まあ、普段使いの竹竿として使えればいいか、と思った次第である。

手元に来たロッドは予想以上に良い出来で、ほとんど使ったことがないように見えた。竹の色を生かし、緑のスレッドが嫌味なく巻かれている。繋いでみても曲がりはない。低番手ではお馴染みのシガーグリップも、私の好みに合っている。リールシートの輪染みはリールを乗せたまま放置していたせいだろう。

ラインを通して振ってみると、3番にはちょっと重く、2番には軽いかなという中途半端な重さだった。投射力重視なら3番、近場の正確さ重視なら2番だろうか。それなりにバットにパワーが乗っており、私好みのスローアクションである。竿袋もロッドケースもなかったので、妻に竿袋を縫ってもらい、私は塩ビチューブでロッドケースを作った。


2番ラインにするか、3番ラインにするか迷ったが、少し重めのラインを乗せると適度にループが広がるので、3番にした。私はウェットフライを使うので、自然にワイド気味のループになった方が投げやすいのである。フルーガープログレスの80に3番DTラインを巻き込み、乗せてみると見栄えもなかなか良い。リールファイトなどあり得ない低番手のリールは単なる糸巻きなので、雰囲気とバランスを重視している。

早春の渓でエゾイワナを釣って入魂した(魚を釣って竿に魂を吹き込むこと)時、「おっ!」となった。コンコンとコルクグリップに魚の引きがなかなか良く伝わってくる。もとより大型の魚を狙うロッドではないので、この「釣り味」と言うものは低番手には不可欠である。山の渓流でイワナ、ヤマメ、オショロコマなどを釣るのにちょうどいいロッドであった。その後、あちこちの川で試してみて、すっかり気に入ってしまった。

12年8月の知床釣行に持って行き、楽しく釣っていたが、シュートに入った瞬間、後ろのブッシュに引っ掛けてしまい、ご覧のようにティップ部分をポッキリとやってしまった。たった4ヶ月だけのご奉公ではもったいない良いロッドだったし、気に入っていたので、修理することにした。




数年前、2番のグラスロッドを組んでもらったことのあるロッドビルダーが、バンブーロッドの修理もやっているので、彼に依頼した。グラスのブランクを被せて繋いだので、修理部分は少し太くなっているが、アクション等には影響がなかった。少々気になっていたリールシートの輪染みも知り合いの釣りバカ君に修理してもらい、銘も入れてもらった。

無銘、破損、修復・・・・。実は小説の中の「のきばしら」も昭和に折れている。そして、最後は茅葺き屋根の裾を整える包丁として働いていることになっている。

13年、私のロッドは「のきばしら」の銘をその身に帯び、愛竿の一本となっている。



12年知床釣行 

40秒付近で使っているロッド。この3時間後にはポッキリ・・・。






13年知床釣行 

小さなオショロコマでも満月に曲がります。楽しいロッドです。



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